降下性ヨウ素の野外環境下における土壌浸透の実態


[要約]
ヨウ素工場の排気筒から大気中へ放出されるヨウ素をトレーサとして用い,放射化分析法によって定量する追跡法を開発した。この方法を用い, 野外環境下における降下性ヨウ素の土壌層内での浸透などの挙動を長期にわたり定量的に解明した。
農業環境技術研究所  環境管理部  分析法研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専門]   環境保全
[対象]
[分類]   研究

[背景・ねらい]
 ヨウ素は欠乏による甲状腺肥大症,過剰による作物の生育障害,放射性ヨウ素による放射線被曝線量評価等,環境科学上重要な元素の一つである。土壌中のヨ ウ素は安定,放射性とも大気経由で供給されるため,野外環境中におけるヨウ素の大気−土壌−浸透水系での長期間挙動の解明が求められている。そこで,ヨウ素工場から大気中に放出される安定ヨウ素をトレーサ利用する長期間追跡法を開発・適用し,その挙動解明を行う。

[成果の内容・特徴]

  1. ヨウ素工場周辺の試験地(隣接の千葉県立茂原農高,地表より1mの高さ)で測定されたヨウ素濃度は,対照地(つくば農環研)より平均70倍と高く (図1), 降下性ヨウ素の長期間追跡が可能であった。また, 放射化分析法を適用することで,ヨウ素の自然界における動態を高感度・高精度で解析することができた。
  2. 2種類の土壌を充てんした1/5000アールポットを非かんがい条件下で試験地に設置し,1.の放出源を利用するトレーサ法を用い,大 気中ヨウ素の土壌表面への降下量,土層内分布,土壌残留率,浸透水による浸出率などを計測・算出した。これらの結果は放射性ヨウ素の環境挙動予測,被曝線 量評価等のモデル化ならびにその移行パラメータとして有効である。
    (1)地表面に降下したヨウ素のうち,降水による湿性ヨウ素が44.2%,乾性ヨウ素(ガス状及び粒子状)は55.8%であった (図2)。
    (2)降下ヨウ素の土壌下層からの浸透(流亡)率は,ヨウ素吸着力の大きい多湿黒ボク土では2%と小さく(蓄積しやすい),吸着力が弱い灰色低地土では 44%と大き (蓄積しがたい)かった(図2)。
    (3)ヨウ素の最大蓄積層は0〜0.2cm,逆に最大の溶脱層は0.5〜1.0cmであった (図3)。溶脱層では土層の還元化が生じてヨウ素が可溶化・ 浸透したことを 明らかにした。
[成果の活用面・留意点]
 この野外トレーサ試験地を利用することで大気−植物系でのヨウ素の動態,例えば植物地上部への直接沈着速度や降雨による洗浄率などを定量することもできた。 留意点は冬期には試験地の大気中ヨウ素濃度が著しく低下し利用しがたいことである。

具体的データ


[その他]

研究課題名:農業環境における原子炉利用新技術の開発と利用の拡大に関する研究
      −環境中トレーサ放出源のアクチバブルトレーサ法の開発−
予算区分 :原子力「農業環境原子炉利用」
研究期間 :平成7年(昭63年〜平6〜(7)年度)
協力・分担:千葉県立茂原農業高等学校
発表論文等:1995年度日本土壌肥料学会関東支部大会講演要旨集,平成6年度国立機関原子力試
      験研究成果報告書(第35集)

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