大気−植生−土壌系モデル計算による農耕地の二酸化炭素収支の変化


[要約]
大気−植生−土壌系モデルを構築し,高温・高CO2濃度(+2℃,+200ppm)条件下での大気−農耕地間の物質・エネルギー 交換過程についてシミュレーションを行い,地球環境変動に伴う農業生態系のCO2収支の変化を解析した。栄養生長後期のダイズ群落では, 高CO2濃度によりCO2吸収量が約45%増大した。
農業環境技術研究所  環境資源部  気象管理科  気象特性研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専門]   農業気象
[対象]
[分類]   研究

[背景・ねらい]
 地球温暖化に影響する大気中の二酸化炭素(CO2)濃度は,農耕地の植物の光合成・呼吸活動と深く関与しているが,地球温暖化に伴って, 農耕地におけるCO2交換量がどのように変化するか不明な点が多い。本研究では,植物が日射・風速・気温等の環境条件の変化に生理生態的に 反応する大気−植生−土壌系のシステムダイナミクスモデルを構築し,高温・高CO2濃度条件下での,大気−農耕地間のCO2 収支を解析した。

[成果の内容・特徴]  2次元NEO-SPAMは大気−植生−土壌系の非定常の微気象モデルで,大気や土壌での熱や水蒸気・CO2の移流拡散式,エネルギー収支式, 植物体内の 水分移動の式等からなる。これに植物の生理生態反応のサブモデルを組み込み,総合的なシステムモデルを構築した(図1)。

  1. ダイズ群落を対象とし,観測データに基づいて葉面積密度分布等のパラメータを設定し,夏季の晴天日(7月28日)の繁茂した群落(LAI=6.57)における日射・風速等の プロファイルの時間変化についてモデル計算を行った (図2)。
  2. 地球環境変動シナリオに基づいて,(a)現在の温度・CO2濃度の場合,(b)高温の場合(現在+2℃),(c)高CO2濃度の 場合(現在+200ppm),(d)高温・高CO2濃度の場合(現在+2℃,現在+200ppm)の4つの場合についてシミュレーションを行った。
  3. 高温の場合(b),光合成速度Pが若干増加するが土壌呼吸Rsoilの増加がこれを上回り,群落上の下向きの日積算CO2フラックスは, 現在と 比べて約16%減少した (図3, 4) 。
  4. 高温・高CO2濃度の場合(d)での光合成速度Pは現在(a)に比べて 午前中約38%増えるが,14時以降主として転流による制限等により低下し (図3) ,群落上の日積算CO2フラックスの 増加は16%程度であった (図4) 。
  5. 群落上の下向きのCO2フラックスを群落光合成量と土壌呼吸に区分して 積算した結果 (図4) ,温度上昇が光合成速度と土壌呼吸に及ぼす影響,高CO2条件での光合成速度の増加が群落上の CO2フラックスに及ぼす寄与等を定量的に把握することができた。
[成果の活用面・留意点]
 本モデルは,種々の群落形態や日射・風速等の環境条件についてシミュレーションを行うことが可能である。しかし,植物の種類や生育時期が異なる場合は,植物の 生理生態反応サブモデルのパラメータについて検討を要する。

具体的データ


[その他]

研究課題名:大気環境に及ぼす影響の解明と評価
      −環境変化に伴う大気−農耕地におけるCO2ガス収支の変動予測
予算区分 :経常,一般別枠 [地球環境]
研究期間 :平成7年度(平成2〜7年度)
発表論文等:大気−植生−土壌系モデル(NEO-SPAM)による数値実験−ダイズ群落の形態の
      違いによる光合成速度分布・効率について,第8回数値流体力学シンポジウム講要
      (1994)

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