発育モデルからみた日本稲およびインド稲の出穂特性


[要約]
従来わが国を対象として開発された水稲の発育モデルが,気象条件の大きく異なる熱帯地方(フィリピン)においても適用可能であり, また同モデルにより水稲品種の出穂特性(基本発育速度、感光性、感温性)の定量化が可能である。
農業環境技術研究所  環境資源部  気象管理科  気象生態研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専門]   農業気象
[対象]   稲類
[分類]   研究

[背景・ねらい]
 近年,日々の気温・日長時間の経過から作物の出穂・開花日を予測する発育モデルに関する研究が進み,わが国では水稲の生育診断,冷害危険期の把握,穂肥 追肥時期の判定等に利用されている。しかし,この発育モデルが日本ばかりでなく気象条件の大きく異なる熱帯地方にも適用可能かは不明である。そこで,気象 条件の大きく異なる日本およびフィリピンにおける日本稲・インド稲の出穂反応から,各品種について発育モデルにおける発育速度( DVR )の パラメ−タを決定し,1つのパラメ−タセットにより両地点での出穂予測が可能であるかを検討した。

[成果の内容・特徴]

  1. 気象条件の大きく異なる日本(つくば)およびフィリピン(ムニョス)で日本稲およびインド稲(フィリピンの奨励品種)を栽培し,その出穂反応により各品種について DVRのパラメ−タを決定して出穂日の推定を行ったところ,各品種とも推定出穂日はよく実測値と一致し(r2=.987〜.998),同一のパラメ−タで温帯・熱帯に おける水稲の出穂予測が可能であることが示された (図1) 。
  2. このようにして決定したDVRのパラメ−タを用いて,DVRと温度・ 日長の関係を求め (図2) ,各品種の出穂に関する特性を次の3要素で表して,その特性を検討した。
    感  温  性=(DVR30c,12hr−DVR20c,12hr)/(30c−20c
      感  光  性=(DVR30c,12hr−DVR30c,14hr)/(14hr−12hr)
      基本発育速度= DVR20c,12hr
      ここで,DVR20c,12hr,DVR30c,12hr:12時間日長における20℃と30℃のDVR
  3. その結果,インド稲は日本稲よりも感光性・感温性が低く,出穂期の長短は主として基本発育速度によって決定されていることが示され (図3) , 日本稲では北海道品種 (図4の1,2,3) ,東北品種 (図4の4,5,6) ,関東以西で栽培されている品種群等,品種の持つ出穂特性と地域性との関係が定量的かつ明瞭に表現できた。

[成果の活用面・留意点]

  1. 発育モデルにより水稲の出穂特性の分類が可能であり,栽培適地策定等に利用できる。
  2. 発育速度(DVR)のパラメ−タを決定する場合、気温および日長時間の年変動の小さい熱帯地方のデ−タのみではモデルの適用性が小さく,日本のような温帯で気象の 変動の大きい場所で得られたデ−タを用いる必要がある。

具体的データ


[その他]

研究課題名:作物類の気象生態反応の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成7年度(昭和58〜平成10年)
発表論文等:(1)DVSモデルからみたインド稲の出穂特性,熱帯農業39巻別号1(1995),
            (2)DVSモデルからみたインド稲および日本稲の出穂特性,日作紀64巻別号1
              (1995)

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