水田における気体炭素の流出入フラックスの同時計測と炭素収支


[要約]
チャンバー法による水田の気体炭素フラックスの測定において,無遮光下では光合成と呼吸・分解が同時進行下でのフラックスを測定するのに対し,遮光下では 呼吸・分解のみのフラックスが測定できると判断した。このような仕分けにより光合成C量と呼吸・分解C量を分別して試算できた。この手法と土壌炭素,田面 水,浸透水炭素分析を組み合わせて水田生態系の炭素収支を試算した。
農業環境技術研究所  環境資源部  土壌管理科  土壌有機物研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専門]   土壌肥料
[対象]
[分類]   研究

[背景・ねらい]
 温室効果ガスの発生の軽減対策は国際的な問題となっているが,それらの対策を講ずるためには様々な 生態系における炭素循環収支の研究が必要である。そのためにはそれぞれの生態系の炭素循環収支を定量的に把握しておく必要があり,その一環として水田にお ける炭素循環収支についての解析が求められている。耕地生態系における気体炭素循環量を定量的に解析する際,昼間の測定では光合成等が進行しており,呼 吸・分解炭素量の評価が困難であった。しかし,遮光することにより呼吸・分解炭素量のみの評価が可能となり,固体炭素(土壌,植物体),液体(潅漑水,浸 透水)の分析と組み合わによる水田生態系の炭素収支の試算をねらいとした。

[成果の内容・特徴]

  1. 農業環境技術研究所内の造成台地土(細粒灰色低地土)水田を定点とした調査において,固体炭素として作土層に含まれる炭素量は土壌部分で11月に 4100Kg,4月 に4810Kg,有機物細片は'93年に280Kg/10aであった。また,3年間の平均玄米収量は484kg/10aで,作物体生産C量は玄米,籾殻, わら,根およびひこばえで,それぞれ,191kg,42kg,263kg,136kg,および16kg/10aであった (図1) 。
  2. 液体炭素としては田面水に含まれる炭素量は約2kg/10aであり,湛水期間中に潅漑水として8kg,雨水として0.4kg流入し,浸透水として26kg/10a流出した (図2) 。
  3. 二酸化炭素は湛水期間中は流入的に,落水期間中は発生的に推移し,メタンは湛水期間中にのみ発生した (図3) 。また,遮光下(呼吸・ 分解が進行)および無遮光下(光合成と呼吸・分解が進行)で二酸化炭素の発生・取り込みを仕分けするとそのフラックスから真の光合成C量と呼吸・分解C量が分別して 試算できると判断した(図4) 。
  4. 水田における年間のCの収支を試算した (図5) 。一番大きいCのプールは土壌,次いで植物であった。大気からCO2-Cとして 1200kgが流入し,植物体として650kgが固定され,雨水・潅漑水として約10kg流入した。その内500kgが呼吸・分解によって,500kgが人為的持ち出しによって,30kgが浸透水として, また,10kgがCH4-Cとして流出し,刈り株等として170kgが土壌に供給されたと試算した。
[成果の活用面・留意点]
 遮光法は耕地生態系の原位置におけるCの無機化量の計測に有効である。チャンバー法で二酸化炭素フラックスを計測する場合,高温の時期にはみかけの光合成C量を 低く評価する傾向がある。

具体的データ


[その他]

研究課題名:水田における炭素循環・収支の定量的解析
予算区分 :地球環境研究総合推進費(炭素循環)
研究期間 :平成7年度(平5−7)
発表論文等:水田生態系の炭素循環における諸量の季節変動とその解析,日本土壌肥料学会関東
      支部会講要(1995)

目次へ戻る