中山間棚田地帯における放棄水田と畦畔のり面の植生動態
- [要約]
- 中山間棚田地帯における放棄水田と畦畔のり面の植生動態を調査し,水田部では
ススキ,ヨシが長期間優占し,遷移の進行を妨げること,畦畔のり面では木本植物が比較
的早く侵入し,棚田斜面の崩壊防止に寄与していることを明らかにした。
農業環境技術研究所 環境生物部 植生管理科 保全植生研究室
[部会名] 農業生態
[専門] 生態
[対象]
[分類] 研究
- [背景・ねらい]
- 耕作放棄が進む中山間棚田地帯では,水田が本来備えている各種環境保全機能が低下し,斜面崩壊等の災害発生や景観変化が懸念されている。そこで,多雪地
滑り地帯において,耕作放棄に伴う棚田および畦畔のり面の植生変化の過程を調査し,景観変化の予測と適正な植生保全・管理方策のための基礎資料を得ようと
した。
- [成果の内容・特徴]
- 調査地の放棄水田植生は,主として乾湿傾度によってススキを主体とする乾性のタイプと,ヨシを主体とする湿性のタイプの群落に区分された
(図1)。前者は凸型斜面及び直線型斜面と,後者は凹型斜面と対応した分布がみられた(表1)。
- 放棄年数の経過にともないススキ,ヨシともに優占度が増加し,他種の侵入が著しく抑制された。これは,ススキ,ヨシのサイズが大型化するとともに,
それらの未分解遺体の堆積量が増加したためと考えられた(図1a,図2)。一方,放棄後20年のススキ型群落では,周辺樹林地の構成種の
侵入が認められた。これは,ススキ株の活力が低下し,侵入種子の発芽定着が可能な空間が形成されたためと推察された。
- 畦畔のり面では,放棄後12年以降は水田部とは対照的に木本植物の侵入が顕著にみられ,急傾斜棚田斜面の崩壊防止に寄与しているとが示唆された
(図1b)。しかし,木本植物が優占するまでの期間については,斜面崩壊の危険性が依然として残されていると考えられた。
- 以上から,調査地における耕作放棄後の植生遷移,景観変化は地形条件からある程度予測可能であること,復田を前提とした休耕年限は,こ
れまでも指摘されたように3年程度であること,景観保全や災害防止の観点から樹林化を促進する場合には,植物遺体の除去や,排水溝等の設置による乾燥化が
必要であること,などの指針が示された。
- [成果の活用面・留意点]
- 中山間棚田地帯における放棄水田植生の保全管理及び景観変化予測の基礎資料として活用できる。なお本調査は,第三紀泥岩相多雪丘陵地帯におけるものである。

[その他]
研究課題名:農地周辺の半自然植生の動態機構の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成8年度(平成3〜8年)
発表論文等:山間地における放棄水田と畦畔のり面の植生動態,
日本生態学会誌,46(3),p.245−256 (1996)ほか
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