フェロモントラップによるコナガ雄成虫の密度推定


[要約]
 性フェロモントラップに誘引されたコナガ雄成虫数とマ−キング法によって推定された成虫密度との間には正の相関が認められ,トラップあたり誘引数の約15 倍の雄成虫が生息しているものと推定された。野生虫の個体数変動が小さいとき,性フェロモン剤はコナガ発生量のモニタ−トラップとして有効である。
農業環境技術研究所 環境生物部 昆虫管理科 昆虫行動研究室
[部会名] 農業生態
[専門]  生態
[対象]  昆虫類
[分類]  研 究

[背景・ねらい]
 性フェロモントラップが害虫の発生予察に利用されるようになって20年近くになるが,発生量推定の手段として,現場での信頼 度はいまひとつである。フェロモントラップには多くの雄成虫が誘引されるが,この誘引数と実際の生息成虫数との間にどのような関係があるかは十分に明らか にされていない。ここではアブラナ科野菜畑でマ−キング法によるコナガの密度推定実験を繰り返して行い,実際にフェロモントラップに誘引された野生成虫数 と個体群密度との相関関係を調べた。
[成果の内容・特徴]
  1. 夏と秋に小規模なキャベツ,ブロッコリ−畑で,蛍光色素でマ−クしたコナガ雄成虫を放し,フェロモントラップで再捕獲した。
  2. 得られた再捕獲デ−タから,簡易な密度推定法によって(Yamamura et al. 1992),現存個体群密度を推定した。
  3. フェロモントラップ誘引数(実測値)と個体群密度(推定値)との間には,有意な正の相関があり(r=0.77),1ア−ル換算でトラップあたり誘引数の約15倍の 雄成虫が生息しているものと推定された(図1)。
  4. フェロモントラップ誘引数の場所間・日間のバラツキを補正するため,畑内に偏りなく複数個のトラップを配置し(1ヘクタ−ルの畑で5個程度), トラップ誘引数も1日のみの値ではなく,数日間の平均値を用いる(図2)。これによって比較的精度よく成虫密度を推定できる。
[成果の活用面・留意点]
  1. フェロモントラップ誘引数から,アブラナ科野菜畑でのコナガの生息数を推定するおおよその目安になる。
  2. 少なくとも1週間程度,トラップ誘引数を毎日調査し,個体数の日変動をチェックする。 この期間の個体数変動がひじょうに大きいときには, 図1の相関関係は期待できない。

具体的データ


[その他]
研究課題名:移動性昆虫の飛翔行動特性
予算区分 :経常
研究期間 :平成8年度(平成5〜8年)
発表論文等:Relationship between the number of wild males
      captured by sex pheromone trap and population
      density estimated from a mark-recapture study
      in thediamondback moth, Plutella xylostella,
      Appl. Entomol. Zool.,30(4)(1995)
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