農耕地における土壌からの二酸化炭素放出速度推定のためのモデル


[要約]
 1991年から1994年の4年間にわたり、陸稲と大麦を二毛作した耕地において土壌からの二酸化炭素放出速度とそれに関わる環境要因との関係を解析して きた。これらのデータを基礎に、夏作期と冬作期における耕地土壌からの二酸化炭素放出速度を推定するための数種類のモデルを構築し、各モデルの妥当性を検 討するとともに各作期における最適なモデル式を提案した。
農業環境技術研究所 環境生物 植生管理科 植生生態研究室
[部会名] 地球環境
[専門]  生態
[対象]
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 環境変化に伴う農耕地生態系の炭素収支・循環について予測を行うために,炭素循環のモデルを構築し,農耕地生態系の炭素の吸 収源・放出源としての評価を行う必要がある。このモデルの中で最も重要な部分は,土壌からの二酸化炭素放出速度を推定するためのモデルの構築である。
[成果の内容・特徴]
  1. 農業環境技術所内の二毛作耕地(表層腐植質黒ボク土;表層土壌(0〜5cm)の炭素含量6.7〜7.6%,窒素含量0.48〜0.52%)におい て,土壌からの 二酸化炭素の放出速度とそれに関わる環境要因との関係を解析したところ,二酸化炭素放出速度は温度と土壌水分の二つの環境要因によって強く影響を 受けていた(表1)。
  2. 夏作期の二酸化炭素放出速度は地表面温度と高い正の相関(R2=0.808)を示したが,土壌含水率とは負の相関を示した(R2=0.692) (表1)。またそれぞれの関係は指数関数と一次式で近似することができた。これらの結果を基礎に,地表面温度と土壌含水率を 変数とするモデル式(SRd=7.30exp(0.035TFd)-0.196Wv;記号は表1参照)を求めたところ,R2=0.925の最も高い 相関の回帰式を得ることができた。
  3. 一方,冬作期の二酸化炭素放出速度は気温・地表面温度・地温と高い正の相(R2=0.850〜0.854)を示したが,土壌水分とは有意な相関を 示さなかった(表1)。
  4. これらのモデル式を用いて,1992年の環境要因(地表面温度と土壌含水率)を基礎に,二酸化炭素放出速度の季節変化を推定したところ, 図1のように実測した二酸化炭素放出速度の季節変化と良く一致していた。このような二つの環境要因を変数とした単純なモデル式により 二酸化炭素放出速度を高い精度で推定できることが明らかになった。
  5. さらに1991年から1994年の環境要因を基礎に,二酸化炭素放出量を推定したところ,夏作期に1,100〜1,300gCO2m-2,冬作期に 600〜700gCO2m-2,一年間当たり1,700〜2,000gCO2m-2の二酸化炭素が耕地土壌から放出されていることが 明らかになった。
[成果の活用面・留意点]
  1. 農耕地における炭素循環のプロトタイプモデルとして利用できる。
  2. ここで得られたデータは,IPCCが定める温室効果ガスの排出・吸収の目録作成のために利用できる。

具体的データ


〔その他〕
研究課題名:環境変化に伴う土壌−作物系における炭素循環過程の変動予測
予算区分 :一般別枠(地球環境),経常
研究期間 :平成8年度(平成2〜8年)
発表論文等:Carbon dioxide evolution from upland rice-barley
      double-cropping field incentral Japan.,Ecol. Res.,
      11,p.217-227(1996)
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