エンドメンバ−法による河川水に対する農耕地排水の寄与率の推定


[要約]
農耕地を流れる河川の水質モニタリングの一環として,水田落水期の平水時に,農村集水域で複雑に混ざり合っている渓流水,集落排水, 農耕地排水の寄与率を,一種の物質収支法ともいえるエンドメンバ−法を用いて推定した。
農業環境技術研究所 環境資源部 水質管理科 水動態研究室
[部会名] 地球環境
[専門]  環境保全
[対象]
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 一般に農耕地を流れる河川水は異なるタイプの水が複雑に混ざり合っていると考えられる。そこで,水文学の分野で用いられているエンドメンバ−法を用い て,河川水に対する渓流水,集落排水,農耕地排水(浅層地下水)の寄与率を推定し,農耕地排水が生態系におよぼす影響を評価するための基礎資料とする。
[成果の内容・特徴]
  1. エンドメンバ−の区分,観測点の設定および平水時一斉調査の実施 
    1. 渓流水,集落排水,耕地排水の水質を3つの極値(エンドメンバ−M1,M2,M3)とした。
    2. それぞれの水質を代表する観測点を次のように設定した(図1)。 
      1. 渓流水(M1):傾斜部と平坦部の境界の位置(D)に3ケ所設定した。
      2. 集落排水(M2):生活排水のみを多量に集めている側溝(E)を1ケ所選んだ。
      3. 農耕地排水(M3):梨園と野菜畑が集中する段丘面に推定される地下水脈の位置に掘った1本のボ−リング孔(F)を観測点とし,浅層地下水の流動層の深さを推定するとともに坑内流速6.13*10-4(cm)を実測した。
       
    3. 農耕地排水(浅層地下水)は遅い坑内流速から判断して平水時の水質の周年平均を求めたが,他の観測点の水質は,1回/2hrの採水間隔で落水期の平水時に24時間連続一斉調査を行い,その平均を求めた。
  2. 結果 
    1. Ca,Mg,K,Na,NH4,Cl,NO3-N,SO4イ オンの中からCaとClイオンの組み合わせを選んで計算式を適用した。その理由は,これらは保存性が高く,説明が容易であり,一斉調査で得られた散布図を みても,河川に流れ込む主要な排水路の水質がすべて三角形の中に収まり,エンドメンバ−法適用の条件を満たしたからである(図2)。  
    2. 約0.5kmの間隔で上流から下流に向かって河川水を採水し(R1〜R4),エンドメンバ−法を適用したところ,流下にともなう寄与率の推移は,周辺の土地利用や集落の配置と良い対応を示した(図1,表1)。
[成果の活用・留意点]
  1. 集水域が明確で,地下水流動層が浅く水収支が取れていることが前提である。
  2. 各々の集水域の特殊性に応じて,エンドメンバ−の区分と測定成分の組み合わせを替えることができるので,汎用性の高い手法といえる。

具体的データ


[その他]
研究課題名:表層流出水における窒素・リンのモニタリング手法
予算区分 :経常「モニタリング」
研究期間 :平成8年度(平成6〜10年)
発表論文等:1)地下水の水みちにおける流速測定,土壌の物理性,
        印刷中(1996)
      2)河川水に対する農耕地排水の寄与率の推定,土肥学
        会関東支部会発表予定(1997)
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