リン酸緩衝液により土壌から抽出される均一なタンパク質


[要 約]
 土壌からリン酸緩衝液により抽出されるタンパク質は,施用有機物や,土壌の種類および管理状態(水田・畑)に関係なく, 約9,000の分子量を持つ極めて均質な物質である。
農業環境技術研究所 環境資源部 土壌管理科 土壌生化学研究室
[部会名] 環境資源特性
[専 門] 土壌
[対 象] 
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 1/15Mのリン酸緩衝液(pH7.0)で土壌から抽出されるタンパク質は,土壌中の可給態窒素(インキュベーション法) と相関が高く,土壌窒素肥沃度の診断指標(樋口:土肥誌,53,1-5,1982)として測定されているが,その実態はあまり明らかに されていない。ここでは,リン酸緩衝液により抽出した土壌タンパク質の分子性状を明らかにするために,各種土壌からの抽液, ならびに石英砂に有機,無機窒素源(Nとして2000ppmを添加)および2%相当の畑土壌を種菌として添加した砂培養土の 抽出液について,分子篩HPLC,あるいはイオン交換HPLCを用いて検討した。
[成果の内容・特徴]
  1. 1/15Mリン酸緩衝液による土壌抽出タンパク質について,分子篩HPLC(Shinpak-DIOL-150,検出は280nm)を用いて分子量を 推定した結果,分子量9,000付近のピークのみが検出された。農業研究センターの有機物長期連用試験(水田土壌)の無肥料区, 化学肥料区,緑肥あるいは堆肥施用区など処理のちがいによらず同一であった(図1)。さらに, 富山県農業技術センターの水田三要素区,農業環境技術研究所の黒ボク畑,草地試験場(未耕地)および栃木県農業試験場の 畑土壌から得られたリン酸抽出液においても,分子量9,000のピークのみが検出された。
     また,これら土壌からのリン酸抽出液を,イオン交換HPLC(DEAE-825,検出は280nm)によってで分析した結果においても, 検出ピークは一つであった。
  2. 石英砂に米ヌカを添加して湛水培養した実験では,培養当初,抽出液中に米ヌカ由来のタンパク質の複数のピークが現れたが, 培養7日目以降分子量9,000に相当するピークが現れ,培養35日後にはほぼ単一のピークとなった(図2)。
  3. 有機物を全く添加せず,硫安とグルコースを添加した畑条件下での砂培養実験では,培養当初,タンパク質のピークは 検出されなかったが,培養が進むにしたがい,分子量9,000に相当する単一のピークに収れんした(図3)。
  4. 以上の結果から,リン酸緩衝液によって土壌から抽出されるタンパク質は,土壌の種類,地目,有機物施用の有無に関わらず, 土壌微生物より生成される準安定化した分子量9,000の均一な物質であると考えられる。
[成果の活用面・留意点]
 土壌中の均一なタンパク質の存在は可給態窒素の評価法の開発に役立つ。

具体的データ


[その他]
研究課題名:施用有機物の無機化速度と作物根圏環境要因との関係
予算区分 :経常
研究期間 :平成9年度(平成3〜11年)
発表論文等:日本土壌肥料学会講演要旨集 (1998)
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