田面水の水質およびトリハロメタン生成能に及ぼす肥培管理の影響


[要 約]
 代かき・移植・除草などの土壌撹拌や鶏糞の施用は,田面水の溶存態有機物濃度(DOC)を高め,浄水処理の際の塩素消毒での トリハロメタンの生成能(THMFP)を高めた。塩化アンモニウム系の肥料および鶏糞の施用は,田面水の臭化物イオン(Br)濃度を高めて 生成するトリハロメタンの組成を変えた。
農業環境技術研究所 環境資源部 水質管理科 水質特性研究室
[部会名] 環境資源特性
[専 門] 環境保全
[対 象] 
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 トリハロメタン(THM)は,水が浄水場で塩素消毒される過程で生成する揮発性の塩素化有機化合物であり,水道水の異味・ 異臭の原因物質となる。水中の有機物が前駆物質であり,飲料水のTHM濃度の水質基準(100μg/L以下)があり,その低減のための 研究が広くなされているが,農業に関わる水のトリハロメタン生成能(THMFP)については研究が殆どなされていない。この研究では 水田の田面水の水質とTHMFPを時期別に評価し,肥培管理との関係を解析し,トリハロメタン前駆物質の公共用水域への負荷削減の 技術開発に資する。
[成果の内容・特徴]
  1. 田面水の溶存有機態炭素(DOC)濃度は代かき,田植え,除草,追肥などの作業により増大した。土壌還元の発達はDOCを増大させた。 一方,中干しはその後の再潅漑の田面水中のDOCを小さくした。また,有機質資材である鶏糞の施用はDOCを増大させた (図1)。
  2. 田面水に塩素を人為的に添加して生成するトリハロメタン生成能(THMFP;Y:μg/L)の 実測値は60.1〜326.0の範囲にあり,DOC(X:mg/L)濃度に比例して増減し,両者にはY=16.89X(r=0.904),の関係が認められた (図2)。
  3. 塩化アンモニウム系化学肥料や鶏糞の施用は,田面水の臭化物イオン(Br)濃度を増大させて(図3), 生成するトリハロメタンの組成の中でBrを含むものの割合を増大させた(図4)。
  4. 浄水処理の際に必要とする塩素添加量(塩素要要求量)を高め,また,クロラミン生成のもとになるアンモニア態窒素 (NH4-N)の濃度は,化学肥料の基肥・追肥,鶏糞の施用により一時的に高まった(図5)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 水道水源となる場合に問題となるトリハロメタン生成関連物質(有機物,アンモニア態窒素,臭化物イオン)の負荷低減の視点からも 施肥撹拌時や追肥時,あるいは除草時の田面水は可能な限り排水しないことが望まれる。
  2. 水田における“中干し”はメタン生成の抑制の視点からのみでなく,田面水中の有機物濃度(トリハロメタン生成能)低減の視点 からも有意義である。
  3. 代かき・移植時を除けば水田田面水のうち排水される部分はわずかであるので,ここで測定されたトリハロメタンの前駆物質である 有機物量がそのまま公共用水に負荷となるわけではない。

具体的データ


[その他]
研究課題名:農耕草地の水質における有機物の動態と影響評価
予算区分 :経常(所内プロ,重点基礎)
研究期間 :平成9年度(平成7〜9年度)
発表論文等:1)村山重俊:農業に関わる水のトリハロメタン生成能,農業環境技術研究所
        第14回土・水研究会資料, 28-43 (1997)
      2)村山重俊,駒田充生,津村昭人:肥培管理が田面水の水質,特にトリハロ
              メタン生成能に及ぼす影響,日本土壌肥料学会講演要旨集, 44, 194 (1998)
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