HPLC-MS/MSによるスルホニル尿素系除草剤の超微量分析法の開発
- [要 約]
- 主要な水田用除草剤であるスルホニル尿素系除草剤は従来分析が困難であった。エレクトロスプレーイオン化
HPLC-MS/MS装置を用いた分析法を開発することにより,従来と比較し簡便でかつ1,000倍以上の高感度で定量することが可能となった。
農業環境技術研究所 資材動態部 農薬動態科 除草剤動態研究室
[部会名] 環境資源特性
[専 門] 薬剤
[対 象]
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- スルホニル尿素系除草剤は,現在日本における水稲栽培用の主要な除草剤である。しかし本系薬剤は,高活性なため従来の
除草剤と比較し低薬量(数mg/m2)で用いられること,また,ガスクロマトグラフ装置では熱分解を起こすことなどから, 一般的な農薬分析法では測定が困難であった。そのため,その活性の高さと広範な使用から環境への影響が懸念されていたにも
関わらず,環境動態の研究は十分に行われていない。本研究では,スルホニル尿素系除草剤の定量を目的として,エレクトロ スプレーイオン化(ESI)法を用いた高速液体クロマトグラフ−四重極タンデム型質量分析装置(HPLC-MS/MS)
(図1)による超微量分析法を開発する。
- [成果の内容・特徴]
- ESI法によるスルホニル尿素系除草剤の主要なイオンは,分子へのH+ の付加により生じた擬分子イオン
〔M+H〕+であった。このことからESI法は本系統除草剤のLC-MS分析に適切なイオン化法と考えられた。
- 水田用に広く用いられている本系統除草剤のベンスルフロンメチルとイマゾスルフロンについて,田面水中の両薬剤のHPLC-ESI-
MS/MSによる定量法を開発した。田面水はガラスフィルターで濾過後,HPLC移動相組成に調整し,高速遠心により微粒子を除いて
分析試料とする。濃縮・精製操作は必要ない。試料10μlを装置に注入しMRM法(Multiple Reaction Monitoring法:
〔M+H〕+を前駆イオンとし,各々のフラグメントイオンを観測する)(図2)により定量を行う。
本分析法によりベンスルフロンメチルを検出限界0.01ng/ml,またイマゾスルフロンを0.03ng/mlの高感度で定量することができた。
これは,従来の分析法の1,000倍以上の感度である。(図3)
- 本法を用いて,圃場における両薬剤の田面水中の濃度変化を調べた。散布49日後の各薬剤濃度は0.3ng/mlであった
(図4)。
- [成果の活用面・留意点]
- 試料を濃縮精製することによりさらなる高感度分析も可能ある。土壌中の薬剤濃度についても簡単な前処理をおこなうことに
よって同様に分析できる。

[その他]
研究課題名:除草活性持続性予測による投入量低減化技術の確立
予算区分 :特研(水田雑草制御)
研究期間 :平成9年度(平成7〜9年度)
発表論文等:1) M. Ishizaka et al.:Trace-level quantitation of sulfonylurea herbicides by
HPLC-ESI-MS/MS,Japan-USA Pesticide Residue Workshop Proceeding,68-72 (1996)
2) 石坂眞澄,高木和広:スルホニル尿素系除草剤のLC-MS分析におけるESI法とAPCI法
の差異について,農薬残留分析研究会講演資料集,136-137 (1997)
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