廃水処理余剰汚泥施用による土壌のレアメタル富化の可能性


[要 約]
 廃水処理余剰汚泥中のレアメタルのうち希土類元素については,地殻規格化パターンの解析から,都市下水汚泥, 化学工場汚泥への一部の元素の集積が認められる。希土類元素以外では,都市下水汚泥施用によって土壌中の銀,カドミウム, アンチモン,タリウム,ビスマスの易溶性画分濃度が高まる可能性がある。
農業環境技術研究所 資材動態部 肥料動態科 有機資源利用研究室
[部会名] 環境資源特性
[専 門] 環境保全
[対 象]  
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 先端技術産業の発展にともない近年多用されるようになったレアメタルによる環境汚染が懸念される。土壌環境への レアメタルの拡散は,廃水処理から生じる余剰汚泥の土壌施用を通しても起こることが考えられる。そこで,レアメタルのうち 希土類元素の汚泥への集積について判定法を開発して検討するとともにその他のレアメタルについて汚泥施用による土壌中の 易溶性画分への影響を検討する。
[成果の内容・特徴]
  1. レアメタルのうち希土類元素(La, Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb,Lu)の濃度比は,廃水処理余剰汚泥に 特定元素の混入がない場合,地殻中の濃度比を反映するので,地殻の各希土類元素濃度に対する汚泥の各濃度の比をプ ロットした 地殻規格化パターンの解析から特定の希土類元素による集積が判定できる(図1)。
  2. 都市下水汚泥では,多くの汚泥で地殻規格化パターンがフラットであることから,特定の希土類元素の集積はないと判定されるが, 一部の汚泥で,規格化パターンがフラットでないことから,特定元素の集積が考えられる(図1a)。
  3. 化学工場汚泥では,多くの汚泥で特定の希土類元素の集積が考えられる(図1b)。
  4. 食品工場汚泥及びし尿汚泥では,特定の希土類元素の集積はないと判定される(図1c,d)。また, 観音台土壌が地殻のレアメタルを反映していること及び豚糞おがくず堆肥には特定の希土類元素の集積がないことが分かる (図1e,f)。
  5. 希土類以外のレアメタルについては,都市下水汚泥施用によって土壌中の銀,カドミウム,アンチモン,タリウム,ビスマスの 易溶性画分(交換態,炭酸塩態,酸化物態)の濃度が高まる可能性がある(図2)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本成果は汚泥施用に伴う土壌汚染の防止技術の開発のために活用できる。
  2. 希土類については,化学工場汚泥及び都市下水汚泥において個々の汚泥間で差異が大きく,また,希土類以外のレアメタルについては, 都市下水汚泥のみの結果を示したが,汚泥の種類によって差異が大きいので汚泥の土壌施用に当たっては留意を要する。

具体的データ


[その他]
研究課題名:有機性廃棄物のリサイクルにともなう動態制御技術
予算区分 :公害防止 [ハイテク産業]
研究期間 :平成9年度(平成5〜9年度)
発表論文等:1)Evaluation of digestion methods for multi-elemental analysis of organic
        wastes by inductively coupled plasma mass spectrometry. Soil Sci. Plant
        Nutr., 42, 251-260 (1996)
       2)Rare earth elements and other trace elements in wastewater treatment
        sludges. Soil Sci. Plant Nutr., 44, 433-441 (1998)
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