中国内蒙古の砂漠化地域における持続的な放牧適正頭数
- [要 約]
- 中国内蒙古の砂漠化地域で緬羊による放牧試験を実施し,4頭/ha以下が適正な放牧頭数であるが,放牧の継続にともない,4頭/ha程度の
放牧頭数でも飼料価値の低い草種の割合が増加し,緬羊の生産性も次第に低下することを明らかにした。
農業環境技術研究所 環境生物部 植生管理科 保全植生研究室
[部会名] 農業生態
[専 門] 生態
[対 象] 野草類
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- 過放牧による砂漠化が進む中国内蒙古の草原地域では,緑化などによる砂漠化防止や自然環境の再生のみならず,生産活動を維持していくための適正な土地管
理手法の開発が必要とされている。そこで,内蒙古自治区奈曼(年平均気温約7℃,降水量約370mm)の放牧草地において,1992年より緬羊の放牧頭数
の異なる4段階の処理区(6,4,2,0頭/ha,1処理区の面積は1.5ha)を設定して放牧試験を実施し,持続的な放牧利用のための適正放牧頭数を明
らかにする。
- [成果の内容・特徴]
- 最大現存量は,6頭/ha区で著しく低い値で推移し,4頭/ha区でも次第に減少する傾向を示した。これに対し生産量は,6頭/ha区でもある程度の量が
維持されており,現存量のような急激な低下は認められなかった(図1)。
- 生産された草種の構成をみると,禁牧区や
2頭/ha区では,イネ科多年草など,粗タンパク含量等からみた飼料価値が中〜高程度の草種がほとんどを占めた。しかし,放牧圧の増加にともなって飼料価値の
低い草種の割合が増加し,6頭/ha区では80%を占めるに至った(図2)。
- 緬 羊体重の推移を調べた結果,4頭/ha区までは毎年1頭あたり5〜10kgの増加がみられた。また,単位面積あたりでみると,4頭/ha区が最も高い値で
推移した。一方,6頭/ha区では試験3年目以降は体重が減少へと転じたことから,生産量の質的な変化が,緬羊の生産性にも大きな影響を及ぼしていること
が示唆された(図3)。
- 試験の結果,4頭/ha程度が最も土地生産性の高い放牧圧であることがわかった。しかし試験の
継続にともない,4頭/ha区においても低飼料価草種の割合が漸増するとともに,緬羊体重の増加量も漸減し,草地に対するインパクトが次第に強まっていることが
示唆された。したがって,禁牧を含めたローテーション利用も同時に取り入れていくことが,砂漠化防止及び生産性維持の両面からみて望ましい。
- [成果の活用面・留意点]
- 現地及び同様の土地自然条件下の放牧草地における,適正な放牧利用計画のための基礎資料として活用できる。なお,植生の種類組成や被度等の
動態については平成6年度成果情報(p23〜24)で発表した。

[その他]
研究課題名:1) 半乾燥地における植生動態に関する研究
2) 砂漠化防止対策効果の環境立地的評価手法の開発に関する研究
予算区分 :科・総合研究(砂漠化),環・地球環境(砂漠化防止)
研究期間 :平成9年度(平成2〜6年,平成7〜9年)
発表論文等:中国における土地荒廃の現状と過放牧による砂地草原の砂漠化,農業技術, 52(6),
12-16 (1997) ほか
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