薬剤感受性の違いを利用した下等真菌の識別法


[要 約]
 胞子等の形態に依存しない方法による下等真菌の識別法を開発した。4種の薬剤(ジメトモルフ,メタラキシル,ヒメキサゾール,ピマリシン)に 対する薬剤感受性の違いを利用すると,調査菌の分類学的所属を推定することができる。
農業環境技術研究所 環境生物部 微生物管理科 微生物特性・分類研究室
[部会名] 農業生態
[専 門] 作物病害
[対 象] 微生物
[分 類] 指導

[背景・ねらい]
 農作物の生育環境には多種多様な真菌が生息している。真菌の同定には調査対象菌が形成する胞子等,子実体の形態情報が必要であり,初めに形態形成の有 無,次に形成された形態の異同を調査することになる。しかし,同定に有効な形態を形成させるには,調査対象菌に適した培地の選択あるいは最適培地の開発を しなければならない。とくに,下等真菌は形態形成の誘導が困難であり,これが発生病害を正確に診断する際の障害となっている。そこで,形態形成に依存しな い方法によって分類学的所属(分類群)を推定する手法を開発する。
[成果の内容・特徴]
  1. 基本培地は,CMA(Corn Meal Agar)培地が菌糸生育の調査に最適であった。
  2. 薬剤は,ジメトモルフ(モルフォリン系),メタラキシル(酸アミド系),ヒメキサゾール(イソキサゾール系),ピマリシン(抗生物質系)が有効であった。
  3. 薬剤感受性の評価は,23℃暗黒下で1週間培養後に薬剤無添加区に対する相対生育度で表す方法が有効であった。
  4. 4薬剤に対する反応と菌糸の隔壁の有無をキー項目とする鑑別表を作成した()。
  5. 本鑑別表による分類群は,分類学的分類群と良く呼応し,わずかに,従来から所属に疑問がもたれている菌種で不整合が生じるだけであった。
  6. 以上のとおり,本鑑別表は形態形成非依存型の下等真菌の分類群推定法として利用できる。
[成果の内容・特徴]
  1. 本法は主として病害を診断する際に利用する。
  2. 培地上の菌糸体に隔壁がないことを確認したのち,4薬剤をそれぞれ添加した培地と無添加培地に同時に移植して薬剤感受性を調べる。
  3. 本法は絞り込みを目的としているので,正確な同定を必要とする場合は,さらに推定された菌群に最適な培地を用いて形態形成を確認する。

具体的データ


[その他]
研究課題名:真菌の分類・同定とその手法の開発
予算区分 :経常
研究期間 :平成9年度(平成7〜16年)
発表論文等:植物病原下等真菌の薬剤感受性に基づく簡易識別,日植病報, 63(3), 206 (1997) 等
目次へ戻る