放線菌のキチナーゼ遺伝子の多様性とその発現制御機構の解明
- [要 約]
- 土壌微生物の中の主要なキチナーゼ生産菌である放線菌は,4種類以上の細菌型キチナーゼ遺伝子と,2種類以上の植物型キチナーゼ遺伝子を有し,
それぞれ性質の異なる多様なキチナーゼを生産する。また,キチナーゼ生産の直接の誘導物質はキトビオースである。
農業環境技術研究所 環境生物部 微生物管理科 土壌微生物利用研究室
[部会名] 農業生態
[専 門] 土壌
[対 象] 微生物
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- キチンを分解する酵素キチナーゼは自然界の炭素循環において重要である一方で,植物病原菌に対して溶菌作用を示すことから,土壌病害の
バイオコントロールにその利用が期待されている。土壌の代表的なキチナーゼ生産菌であるStreptomyces 属放線菌のキチナーゼ生産能について,
分子生物学的に解析し,キチナーゼ生産の人為的コントロールや機能を強化したキチナーゼの作出など,新たな利用法の開発に資する。
- [成果の内容・特徴]
- ショットガンクローニングにより,多くの細菌で見いだされているファミリー18型に属する3つのチナーゼ遺伝子(chiA ,chiB ,
chiC )を得,それぞれ異なるドメイン構造をとっていることを明らかにした(図1)。さらに,コスミド整列ライブラリーから,
新たなファミリー18キチナーゼ遺伝子(chiD 他)と,主に植物に見いだされれていたファミリー19型に属するキチナーゼ遺伝子3クローンを得た。また,
これら複数のキチナーゼ遺伝子は放線菌(Streptomyces 属)に属する多くの種で保存されていることがサザンハイブリダイゼーションにより明らかになり,
放線菌は系統的に全く異なるファミリー18と19のキチナーゼ遺伝子をそれぞれ複数ずつ併せ持ち,極めて多様なキチナーゼ生産能を有することが明らかになった
(図2)。
- 放線菌のキチナーゼ生産は,基質であるキチンにより誘導されたが,グルコース等の糖類の共存下では抑制された。
- 種々の大きさのキチン分解産物の中で,キチナーゼ遺伝子の発現は,キチンの構成単糖(N-アセチルグルコサミン)2つからなるキトビオースにより誘導される
ことが明らかとなった。
- S. lividans のキチナーゼ生産に対するグルコース抑制には,グルコース代謝関連酵素であるグルコースキナーゼが関与していることが明らかになった。
- 各種放線菌のキチナーゼ遺伝子のプロモーター配列の解析等より,放線菌のキチナーゼ遺伝子の発現は共通の制御を受けていることが示され,プロモーター
断片に特異的に結合するタンパク質の遺伝子をクローニングした。
- [成果の活用面・留意点]
- 得られた遺伝子や情報をもとに,ハイブリッド酵素など,より高機能のキチナーゼの作出が期待できる。キチナーゼ遺伝子の多様性は
Streptomyces 属のほとんどの種に当てはまると考えられ,生物界におけるキチナーゼの進化を知る上で重要な情報である。

[その他]
研究課題名:放線菌の菌体外酵素生産における生物情報
予算区分 :大型別枠 [生物情報]
研究期間 :平成9年度(平成7〜9年)
発表論文等:1)Molecular cloning and characterization of chitinase genes from Streptomyces
lividans 66. J. Gen. Microbiol., 137. 2065-2072 (1991)
2)Identification of glutamic acid 204 and aspartic acid 200 in chitinase A1
of Bacillus circulans WL-12 as essential residues for chitinase activity.
J. Biol. Chem., 268, 18567-18572 (1993)
3)Nucleotide sequence and expression of a gene from Streptomyces lividans. J.
Ferment. Bioeng., 83, 26-31 (1997) 他
目次へ戻る