蔓性マメ科植物ヘアリーベッチの雑草抑制作用


[要約]
 蔓性マメ科植物ヘアリーベッチが示す強い雑草抑制作用は,土壌表面の被覆による光の遮蔽効果だけでなく,根や茎葉の浸出成分による 他感作用によるところが大きい。
四国農業試験場 地域基盤研究部 資源利用研究室
[部会名] 農業生態
[専 門] 生態
[対 象] 牧草類
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 蔓性のマメ科植物ヘアリーベッチ(Vicia villosa ROTH.)は,欧米では牧草や緑肥あるいは果樹園の下草として広く栽培されている。本植物は春先の生育が旺盛で雑草抑制力に優れるため,近年増加の一途 をたどっている休耕地や耕作放棄地の地力維持と雑草防除に有用な植物として日本でも普及しつつある。本研究の目的は,ヘアリーベッチ(以下ベッチと略)が 示す強い雑草抑制作用のメカニズムを明らかにすることにある。
[成果の内容・特徴]
  1. 傾斜10度の均一畑圃場において,斜面上方にベッチが栽培されている区とされていない区(各区10×10m)の雑草量及びその植生を比較すると, 前者では雑草量が区全域に渡って少なく,特にノゲシやヨモギなどのキク科雑草の減少が著しい(図1)。
  2. ベッチの根および地上部の影響を調べる栽培装置(図2)を用いて雑草の生育に対する作用を見ると,本植物の 根,地上部両方の影響を受ける場合(図2-b区),春・夏雑草の生育は完全に抑えられ,また根だけの影響を受ける場合 (図2-c区)においても極めて強い抑草作用が認められる(図3)。
  3. ベッチ根を抜き取った跡の川砂を水洗し,再度ポットに充填して雑草を播種すると,ハコベやメヒシバの生育が悪く,砂吸着性成分による抑草作用が 観察される。
  4. 栽培装置の底から流出する水を集め,雑草を播種したポットに定期的に潅水すると,スズメノテッポウの生育はベッチ栽培区の浸出水により 著しく抑制を受ける。
  5. ベッチ栽培土壌からの浸出水を分画すると,酸性物質を含む画分が特に強い抑草作用を示し,濃度依存的にキク科雑草ノゲシの発芽を 阻害する(図4)。
  6. 以上,圃場や現地で観察されるベッチの雑草抑制作用には,土壌表面被覆による遮光効果だけでなく,地上部茎葉や根から雨水に溶けて 浸出してくる他感物質も大きく関係していることを明らかにした。
[成果の活用面・留意点]
  1. 他感物質は複数存在し,雑草種によりそれらに対する感受性が異なる。
  2. 圃場ではベッチが7月に枯れた後,1〜2カ月すると雑草が生え始めること,後作への影響は認められないこと等から,吸着性の抑草成分は 土壌中に長く留まらない。

具体的データ


[その他]
研究課題名:ヘアリーベッチ等被覆植物を利用した耕地雑草制御
予算区分 :大型別枠(生態秩序)
研究期間 :平成9年度(平成8〜10年)
発表論文等:ヘアリーベッチを用いた四国地域の耕地雑草制御,四国農試報,62,45-70(1998)
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