飛行船型低層巡航リモートセンシングシステム


[要 約]
 低高度を巡航しながらマルチバンドのスペクトル画像計測を行う飛行船型の低層リモートセンシングシステムを試作開発し,圃場の精密管理や, 地域植生等に関する情報を高精細度で観測するためのシステムとして有効であることを明らかにした。
農業環境技術研究所 環境管理部 計測情報科 隔測研究室
[部会名] 環境評価・管理
[専 門] 情報管理・栽培
[対 象] 植物
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 局地〜地域規模における自然植生のモニタリングや,作物の精密管理に必要な植物・農地情報を把握する上で,リモートセンシング手法はきわめて有効な方法 であり,空間解像度,時間分解能,データ取得の自由度などの面で種々の応用ニーズに対応した多様なプラットフォームや画像計測システムの開発を進める必要 がある。そこで,低高度からの空中スペクトル画像計測を可能とする飛行船型の低層巡航リモートセンシングシステムを試作開発し,可能性を検証した。
[成果の内容・特徴]
  1. 上空を航行しながら地上を観測するためのプラットフォームとして,長さ約23m,最大直径約7m,総容積約400m3(内ヘリウム容量約320m3) の飛行船型システムを試作開発した。システムは6気筒エンジン(25HP)を備え,無線制御により,制御地点から半径1km程度の範囲で航行させることが 可能である。センサ等の搭載能力は約100kg,最大時速約40km,飛行高度は約30〜500mの範囲である。直下モニタ用ビデオカメラの画像を無線伝送することにより, 観測範囲を常時確認するとともに,飛行高度を観測画像に取り込んで記録することができる(図1)。
  2. 青・緑・赤・近赤外の4バンドのCCDビデオカメラシステムを試作搭載し,本観測システムによる飛行観測実験を行った結果,上空において静止または 超低速で巡航しつつ直下観測を行うことが可能であった。機体振動の影響も微弱で,きわめて良質の画像を取得できた。高度制御により1フレーム の画像で10a〜15ha程度の領域を数cm〜数十cmの高解像度でカバーでき,飛行しながら1/30秒ごとのスペクトル画像を連続的に記録する。
  3. バイオマスや葉面積指数は,少数バンドの反射計測でも比較的良好な評価が可能で(例:図2), マルチバンドの画像から作物圃場の バイオマスや葉面積指数の面的変異を高い解像度でとらえ得た(図3)。

    以上のように,飛行船型システムは,巡航の速度,高度,安定度,騒音,観測の自在性等の面において優れ,低層からの高解像度の地表面リモート計測 システムとして好適な特性を有する。

[成果の活用面・留意点]
  1. 作物生長・収量,土壌特性等の農耕地特性の高精細度マッピングや精密GIS等のための低層リモートセンシングに応用が可能。また,最近種々の用途への 飛行船の応用が注目されており,数少ない先行事例情報となる。
  2. 普及のためには今後,低コスト化,メンテナンスの簡易化等飛行船技術の高度化が期待される。現時点では平均風速毎秒4m程度までの条件での観測が望ましい。 資格等は特に要しない。

具体的データ


[その他]
研究課題名:植物―環境情報の分光学的非破壊計測手法の開発
予算区分 :経常
研究期間 :平成9年度(平成7〜11年)
発表論文等:1)スペクトル画像の空中計測による作物・圃場情報の評価 第2報 低層巡航型
        スペクトル画像計測システムの試作,日作紀, 66 (1997)
      2)Remote imaging spectrometry for quantifying spatial variability. Proc.
        1st Conf. European Precision Agric. (1997)
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