農業で使用している化学肥料,化学農薬,購入飼料などに起因する環境負荷が日本でも顕在化してきている。その一方,安価な輸入農産物に押されて国内農業は圧迫されてきている。このため,今日,日本農業の推持・発展を図ることと,農業・農村の環境を保全することとの両立が,大きな課題となってきている。そして,こうした問題は我が国の農業・農村政策において今後ますます重要になると考えられる。
農業環境技術研究所は農林水産省の他の試験研究機関と連携を取りつつ,こうした問題の解決に役立つ技術開発に取り組んでいる。農業と環境との両立を図るためには,土・水・大気といった農業資源の特性を活用した農業生産力の向上・安定化,生物間相互作用を活用した有害生物の防除,ロスが少なく利用効率の高い養分管理など,圃場内での環境保全的農業技術の開発が必要なことはいうでもない。しかし,今日ではそれだけでなく,圃場内での農業行為が圃場の外の環境を悪化するのを防止することも求められている。そのため,水系の水質保全,農業・農村の育んできた身近な生物の保全,農業の持つ国土保全機能の維持・向上, 地域の物質循環の活用,農業からの温室効果ガス排出の削減など,様々な問題に対処する技術開発が必要である。
また,これらの技術開発の基盤として,リモートセンシングや放射性同位元素利用,農業生体系に生息する生物の分類などの基盤技術も大切である。そして,国内の問題だけでなく,海外での農業環境問題の解決への貢献も求められている。
この冊子は,平成9年度に農林水産省の試験研究機関の行ったこうした農業環境に関する研究成果の中から,各機関の推薦されたものを検討して選定した主要な成果である。いずれも優れた成果ではあり,農業環境関係の行政,普及,試験研究に携わっておられる方々に役立てるものと期待している。しかし,各成果は概要を記しただけであり,不明な部分については,それぞれに記された連絡先に電話するなど,直接問い合わせを行って頂きたい。
本冊子の刊行に際して,ご協力を頂いた関係試験研究機関並びに編集を担当された方々に謝意を表する。
平成10年8月
農業環境技術研究所所長
西 尾 道 徳