複雑地形および多様な土地利用地域に適用可能な広域蒸発散量分布の推定手法
- [要 約]
- 複雑な地形および多様な土地利用の地域を対象に,日々の広域蒸発散量の分布を推定する手法を開発した。本方法は中山間地域や土地利用の季節変化などにともなう農耕地の水収
支の評価に活用することができる。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境資源部 気象管理科 気候資源研究室
[部会名] 農業環境・環境資源特性 総合農業・生産環境 四国農業・生産環境
[専 門] 農業気象
[対 象]
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- 農耕地の水収支や水資源の有効利用を考える際の基礎的情報として,蒸発散量の広域分布は欠かせない要素である。多くの仮定を必要とする空気力学的方法に代わり,地形および土地利用形態が複雑な地域を対象に,季節による土地利用の変化や気象条件の変化などに応じた蒸発散量の広域分布を日単位で推定する。
- [成果の内容・特徴]
- 日積算蒸発散量の計算にはペンマン(Penman)式を修正した式(表1)を用いる。蒸発のエネルギー源となる放射の項については,従来の研究結果を整理した関係を利用し,メッシュ化した土地被覆状態ごとに決定する。日射量の推定は,周辺地形による直達日射の遮蔽効果を10分ごとに評価し,メッシュごとの日積算日射量を求めるもので,四国農試が開発したモデルを基礎とする(表1の特徴の項参照)。
- 土地利用分布を決める基礎となる土地被覆は,5月上旬に撮影したランドサット/TMデータの画像情報と国土数値情報とを対比させ,夏期の状態を決定する。7種にカテゴリー区分した土地被覆状態から土地利用分布を決める(図1上)。土地利用の季節変化を考慮する際に画像データの入手が困難な場合には,作付けの変化に合せて地被のカテゴリーを変更する。
- 推定手順の概略を図2に示す。月日,代表地点における日射量,気温,湿度を入力要素とし,地形および土地利用分布を条件としてメッシュごとに日積算蒸発散量を推定する。この手順を,地形が複雑であり土地利用の季節変化が明瞭な香川県の讃岐平野西部に適用した。250mメッシュを用いて夏期の蒸発散量分布を推定した事例を図1下に示す。水田や林地では推定値と実施値がよく一致する。
- [成果の活用面・留意点]
- 推定精度向上のためには,推定対象領域内の代表地点(周辺地形の影響が少ない1地点の地上付近)で日射量,気温,相対湿度,風速を測定することが推奨される。

[その他]
研究課題名:農業気候資源の評価法の開発と分布の解明
予算区分 :経常,流動研究,科・重点基礎(広域蒸発散)
研究期間 :平成10年度(昭和58〜10年)
発表論文等:
1)Spatial distribution of actual evapotranspiration rate over an area with complex
land use and terrain, Proc. The Second Int. Conf. on Climate and Water, Finland (1998)
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