糸状菌バイオマスの指標物質としての土壌リン脂質18:2ω6


[要 約]
  糸状菌の主要脂肪酸である18:2ω6(リノール酸)が土壌中の糸状菌バイオマスの指標物質として使用できるか検討した結果,畑土壌から抽出したリン脂質18:2ω6は大部分が糸状菌バイオマスに由来しており,有機物施用直後には土壌糸状菌の増殖に伴いバイオマス当たりのリン脂質18:2ω6含量が増加することが明らかになった。
[担当研究単位]農業研究センター 土壌肥料部 畑土壌肥料研究室
[部会名] 農業環境・環境資源特性,総合農業・生産環境,関東東海・生産環境
[専 門] 土壌
[対 象] 微生物
[分 類] 研究 
 

[背景・ねらい]
 土壌中の糸状菌バイオマスは一般に直接検鏡法による菌体の重量換算値が用いられているが,糸状菌菌糸長の計測に熟練を必要とし,労力がかかる。土壌リン脂質には土壌糸状菌の主要脂肪酸であり,かつ土壌細菌にはほとんど含まれない18:2ω6(リノール酸)が含まれている。そこで糸状菌バイオマスとの関係を調べるため,各種の畑土壌について,13C-酢酸ナトリウムのリン脂質18:2ω6への取り込みの解析及びリン脂質18:2ω6含量と直接検鏡法,クロロホルムくん蒸抽出法によるバイオマスの比較を行った。
[成果の内容・特徴]
  1. 淡色黒ボク土,灰色低地土において,13C-酢酸ナトリウムの添加によりリン脂質18:2ω6へ13Cが取り込まれたが,シクロヘキシミドを添加して糸状菌の生育を阻害すると13Cの取り込みは検出されなかった。リン脂質18:2ω6へ取り込まれた13Cは,クロロホルムくん蒸24時間処理により糸状菌を死滅させると,87%(淡色黒ボク土),75%(灰色低地土)減少した(図1)。このことからリン脂質18:2ω6は大部分が糸状菌バイオマスに由来することが明らかとなった。
  2. 淡色黒ボク土,灰色低地土,赤色土,厚層多腐植質黒ボク土を乾土0.5%のグルコース添加,セルロース添加,無添加の条件で3〜56日間25℃暗所で培養し,糸状菌バイオマスとリン脂質を分析した。糸状菌バイオマスとリン脂質18:2ω6含量の間には有意な相関が認められたが相関係数は低かった(図2A)。リン脂質18:2ω6含量の高い土壌では相関係数は0.64**図2B)とやや高い値となった。
  3. 淡色黒ボク土畑圃場に豚ぷん堆肥3.0kg/m2を施用後7日目のリン脂質18:2ω6含量は施用前の約10倍に増加した(図3)。リン脂質18:2ω6含量の変化は微生物バイオマス(クロロホルムくん蒸抽出法)から細菌バイオマス(リン脂質脂肪酸含量から換算)を差し引いた値の変化に比べ大きかった。同様な傾向は青刈りナタネ施用時にも見られ,有機物施用直後には土壌糸状菌バイオマスあたりのリン脂質18:2ω6含量が増加することが明らかになった。
[成果の活用面・留意点]
  1. リン脂質脂肪酸の測定法の修得は直接検鏡法に比べ簡易で労力も小さい。
  2. 施用有機物中に植物葉由来のリン脂質18:2ω6が多量に存在する場合にはその量を考慮する必要がある。

具体的データ


[その他]
    研究課題名:作物根と機能性有機物の相互作用の解明
    予算区分 :経常,科・重点基礎
    研究期間 :平成10年度(平成4〜10年)
    発表論文等:
        1)有機物添加にともなう各種畑土壌の細菌・糸状菌バイオマスの変動解析(1),(2)
                  日本土壌肥料学会講演要旨集 44,(1998) 
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