畑栽培下におけるイネの低リン酸耐性に関わる量的形質遺伝子座


[要 約]
 ジャポニカ(日本晴)とインディカ(Kasalath)の交雑種に関する遺伝子地図を用いてイネの低リン酸耐性に関わる四つの量的形質遺伝子座(QTL)の存在を推定し,そのうち二つのQTLについて低リン酸土壌におけるリン酸吸収能に関連していることを確認した。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 環境資源部 土壌管理科 土壌生化学研究室
[部会名] 農業環境・環境資源特性
[専 門] 土壌
[対 象]  水稲
[分 類]  研究

[背景・ねらい]
 イネゲノム解析研究プロジェクト(生物資源研)では,多数のDNAマーカーによるイネの高密度の遺伝子地図が作成されている。日本型イネ品種(日本晴:低リン酸耐性が低い)とインド型品種(Kasalath:低リン酸耐性が高い)を用いて,低リン酸耐性遺伝子の存在を確認し,低リン酸耐性に関するNear Isogenic Line(NIL:準同一遺伝子系統)が選定できれば,まだ解明されていないイネの低リン酸吸収機構の解明ならびに生産性の高いイネ品種の育成に貢献できる。
[成果の内容・特徴]
  イネゲノム解析研究プロジェクトで育成された日本晴とKasalathの戻し交配交雑品種後代(BC1G5)の集団(98系統)を用いて低リン酸土壌(黒ボク土,トルオーグ:0.5 mg P kg-1,ブレイ2法:4.5mg P kg-1)でリン酸無施用で栽培(畑条件)し,乾物重,リン酸吸収量を測定した。このデータをもとに低リン酸耐性の量的形質遺伝子座(QTL)を調査した。
  1. Kasalath由来の低リン酸土壌からのリン酸吸収に関する三つのQTLを見つけることができた(表1)。染色体番号2,6,12にそれぞれ存在する遺伝子マーカーはG277,C498とC443であり,その中でC443はリン酸吸収にもっとも効果があると推定された。
  2. 低リン酸土壌からリン酸吸収に関わる三つのQTL候補について,NILをイネゲノムチームが持つ系統から選び出した(表2)。これらのNILは遺伝的には89〜96%日本晴に近い系統である。
  3. NIL-C443-KはNIL-C443-Nよりも,また,NIL-C498-KはNIL-C498-N(Nは日本晴からKはKasalath由来遺伝子を示す。表2を参照)よりもリン酸吸収量は2倍以上多く,生育も旺盛であった(図1)。このことから,これら二つのQTLが低リン酸土壌におけるリン酸吸収の能力に関連していることが推定された。
  4. NIL-C498-Kの根長はNIL-C498-Nと比較して有意に長く,C498遺伝子座は低リン酸条件で根長が増大し,これがリン酸吸収に関連するものと考えられる(図2)。以上,二つの遺伝子座が低リン酸耐性に関連することが確認された。
[成果の活用面・留意点]
  この解析法は遺伝子地図がある程度作成されている作物について利用できる。イネの畑条件下におけるリン酸吸収機構については,まだ十分には解明されていない。

具体的データ


[その他]
    研究課題名:低リン酸耐性作物の遺伝的変異とリン酸吸収機構の解明 
    予算区分 :経常 
    研究期間 :平成10年度(平成9〜11年) 
    発表論文等: 
         1)Theoretical and Applied Genetics,97 (1998)
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