殺虫剤NACを分解する新規土壌細菌
- [要 約]
- マツ枯れ防除用殺虫剤NACを分解する2種の細菌,19B,19C株を林地土壌から分離した。両菌株とも無機塩液体培地中のNACを1-naphtholを経て急速に分解した。また,両菌株とも,Arthrobacter 属の新種の可能性が高い。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 資材動態部 農薬動態科 除草剤動態研究室
[部会名] 農業環境・環境資源特性
[専 門] 薬剤
[対 象]
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- わが国の林業分野においては,マツ枯れ防除用の殺虫剤NAC(カルバリル)が現在まで長期間にわたり使用され続けてきた。当薬剤は原液あるいは3倍液等の高濃度で空中散布されるため,林地の土壌中に残留し,環境汚染物質となることが懸念される。本研究では,このような残留農薬を微生物の機能を利用して,軽減化する技術の開発を目指した。
- [成果の内容・特徴]
- アカマツ林内で,NAC50%水和剤を人為的に継続処理し,一定期間後に採取した土壌は,無機塩液体培地中(pH 5.8)のNACを高率に分解した。この土壌から25種の細菌と2種の糸状菌を分離した。それぞれのNAC分解力を調査した結果,2種の細菌(19B株,19C株)が急速にNACを分解することを見い出した。
- 2菌株によるNAC(50ppm)の分解度調査を,液体培地中で経時的に(30分後〜5日後まで)行った。その結果,両菌株ともに強力な分解力が認められた(表1)。
- 2菌株によるNACの分解代謝経路を解明するためGC-MS測定を行った。両区とも,主要な分解代謝物として,1-naphtholが検出された。この他の代謝物としては,1,4-
naphthalenedioneが両区に,1,4-naphthalenediolが19B区に認められた。しかし,いずれも量的には僅かであった。得られた分解代謝物から,分解経路を推定した(図1)。
- 2菌株はグラム陽性の桿菌で,各種細菌学的性質及び16S rRNA遺伝子の塩基配列解析により,それぞれArthrobacterに属する新種である可能性が高いと考えられた(図2)。
- [成果の活用面・留意点]
- NAC汚染土壌の生物的環境修復に,強力な分解力を持つ2菌株の利用の可能性が考えられる。
- 両菌株が新種であることを確定する為には,類似種との間のDNA類縁度を調べる必要がある。

[その他]
研究課題名:林地薬剤分解微生物の探索・分離と強力分解微生物の作出
予算区分 :フロンティア(環境修復),経常
研究期間 :平成10年度(平成9〜11年)
協力・分担:蚕糸・昆虫農業技術研究所
発表論文等:
1) 土壌細菌2菌株によるNACの分解と代謝,
日本農薬学会第23回大会講演要旨集(1998)
2) Degradation and its metabolites of the insecticide, carbaryl,
by soil bacteria.
Abstracts of 9th International Congress Pesticide Chemistry(1998)
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