シバ優占放牧草地における不食パッチと種多様性の関係
- [要 約]
- シバ優占の放牧地では,家畜が採食しない草丈の高いパッチが生じ,この不食パッチには秋期に開花する高茎草本が多く分布する。種多様性の高い植物群落に導くためには,不食パッチの存在が不可欠である。
[担当研究単位] 中国農業試験場 畜産部 草地飼料作物研究室
[部会名] 農業環境・農業生態,中国農業・畜産
[専 門] 生態
[対 象] 野草類
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- シバ型草地での放牧は,在来草種を利用した省力的な放牧形態として,また自然環境の保全等に配慮した放牧形態として,近年再評価されている。しかし,集約的な放牧利用は時として群落の種多様性の低下を招き,自然保護の観点から問題を生じることが少なくない。そこで,放牧草地に特徴的なパッチ構造と種組成の関係に注目し,シバ優占放牧草地における構成種の分布上の特徴を明らかにした。
- [成果の内容・特徴]
- 毎年1回冬期に刈払いを行ない,黒毛和種成雌牛を約1頭/haの密度で連続放牧しているシバ型の野草地では,6月頃に草丈30cm以上の不食パッチが形成される。パッチの成因は,有刺植物や糞およびそれらの周囲を牛が採食しないためである。8月にはパッチの面積が全体のおよそ20%を占め,その後は秋期までパッチの位置および面積はほとんど変化しない(図1)。
- 草丈の高いパッチの中には,草丈の低い採食場所には出現しない高茎草本が生育しており,り,草地全体の種多様性を高めている。秋期の1u当たり平均出現種数は,草丈の低い場所で12.4種(最小7,最大22種),草丈の高いパッチで18.1種(最小11,最大24種)である(表1)。
- 秋咲きの草本の多くは,パッチ内で密度が高く,開花・結実も順調に行なわれる(表2)。調査対象種のうち,センブリ1種のみがパッチに分布せず,草丈の低い場所(採食地)にのみ分布していた。
- 採食場所で種組成が単純化しやすいシバ型放牧地において,種多様性を向上させるためには,不食パッチの存在が不可欠であり,種多様性の高い植物群落を目標とすれば,草地内に不食パッチが残るように,放牧密度を高めすぎないことが必要である。
- [成果の活用面・留意点]
- 多種類の在来植物が生活史を完結する条件を整備し,多様性の高い放牧地を造成・維持する上での基礎的知見として活用できる。
- 冬期以外に不食地の刈払いを行なう際には,草本植物の開花・結実時期を避けるか,全面刈りをせずに部分的に不食地を残す等の配慮を必要とする。

[その他]
研究課題名:草原性植物の生態保全と畜産的土地利用との関連解析
予算区分 :経常
研究期間 :平成10年度(平成8〜11年度)
発表論文等:
1)放牧地におけるパッチ構造と群落の多様性維持,日本生態学会第46回大会講演要旨集(1999)
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