シミュレーションによるミナミキイロアザミウマに対するナミヒメハナカメムシの放飼効果の評価
- [要 約]
- シミュレーションにより,ハウス栽培におけるミナミキイロアザミウマの防除には捕食性天敵であるナミヒメハナカメムシを高密度で早めに放飼するのが重要で,春の放飼が秋の放飼より効果的であり,防除効果が作物により異なることが予測される。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境生物部 昆虫管理科 天敵生物研究室
[部会名] 農業環境・農業生態
[専 門] 作物虫害
[対 象] 天敵
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- 土着捕食性天敵ナミヒメハナカメムシは,ハウス栽培のナス,ピーマン等果菜類のミナミキイロアザミウマの生物農薬として期待されている。本種の効果的利用技術の開発の一環として,ミナミキイロアザミウマと本種の個体数変動を記述するシミュレーションモデルを作成して,放飼効果に対する放飼条件,作物,作期の影響を検討する。
- [成果の内容・特徴]
- シミュレーションモデルには,昆虫の齢構成と,発育,生存,産卵,捕食のパラメーターを温度の関数として組み込んだ。昆虫の加齢過程はboxcar trainサブルーチン(Rabbinge et al., 1989)で記述し,捕食者の機能的反応は円盤方程式(Holling, 1959)で記載した。また時間単位の変温条件におけるシミュレーションを行った。
- モデルの予測値は,野菜・茶業試験場におけるナスのミナミキイロアザミウマに対するナミヒメハナカメムシの放飼試験の個体数調査データ(Kawai,1995)と良く一致した。
- モデルのシミュレーションにより以下のことが予測される。
- ミナミキイロアザミウマに対するナミヒメハナカメムシの放飼は,アザミウマを発見次第,高密度で,できるだけ早く行うと効果が高い(図1)。
- ミナミキイロアザミウマの産卵数は,キュウリが最も多く,ナスがそれに次ぎ,ピーマンでは最も少ないが(河合, 1986),このためミナミキイロアザミウマに対するナミヒメハナカメムシの効果は,同じ放飼条件では,ピーマンで最も高く,キュウリが最も低くなる(図2)。
- ナミヒメハナカメムシは春の放飼が最も効果的でミナミキイロアザミウマの絶滅をもたらすが,秋の放飼では効果はやや劣り,アザミウマは絶滅することなく低密度で推移する(図3)。
- [成果の活用面・留意点]
- モデルは汎用性があり,他の害虫と捕食者,寄生者の系でも個体数変動が記述でき,天敵利用技術開発の指針として活用できる。
- モデルには,昆虫の空間分布や移動,分散といった空間的要素は含まれていない。

[その他]
研究課題名:農業生態系における天敵の評価
予算区分 :経常,国際共同(二国間型)
研究期間 :平成10年度(平成4〜9年)
発表論文等:
1)Effects of temperature on the development and reproduction of Orius sauteri
(Poppius) (Heteroptera: Anthocoridae), a predator of Thrips palmi Karny
(Thysanoptera: Thripidae), Appl. Entomol. Zool. 34(2) (1999)
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