PCR法を利用した菌の薬剤耐性遺伝子のブドウ晩腐病斑からの検出


[要 約]
 ブドウ晩腐病菌(Glomerella cingulata,Colletotrichum acutatum)の1つであるC. acutatum はベンゾイミダゾール系薬剤とジエトフェンカルブの両方に低感受性である。この性質は菌のβ−チューブリン遺伝子の1塩基置換に起因するが,罹病植物体からnested PCRによって直接遺伝子診断することができる。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 資材動態部 農薬動態科 殺菌剤動態研究室
[部会名] 農業環境・農業生態
[専 門] 薬剤
[対 象] 微生物
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 最近,ベンゾイミダゾール系薬剤及びジエトフェンカルブに低感受性(自然耐性)のブドウ晩腐病菌C. acutatumが見出されたので,これに関連する菌のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列の違いを直接検出する方法を検討する。
[成果の内容・特徴]
  1. ブドウ晩腐病には従来から知られるG. cingulata のほかC. acutatum も関与することが種特異的プライマーを用いたPCR実験等によって確認できる(図1)。
  2. C. acutatumG. cingulata とは異なり,ベンゾイミダゾール系薬剤とジエトフェンカルブの両方に低感受性である(図2)が,これは菌のβ-チューブリン遺伝子のコドン198における1塩基の違いによる。
  3. 晩腐病に罹ったブドウの花蕾から菌のゲノムDNAを直接抽出・精製し,β-チューブリン遺伝子をPCR増幅する。 次いで,このPCR産物を鋳型としてnested PCRを行うことにより,β−チューブリン遺伝子の1塩基置換を特異的に検出することができる(図3)。
[成果の活用面・留意点]
 薬剤耐性菌の迅速遺伝子診断法の実用化技術の開発が期待できる。 また,β−チューブリン遺伝子は糸状菌の種の類別にも使えることから,農業生態系における微生物集団の遺伝子型解析にも応用できる。

具体的データ


[その他]
    研究課題名:植物病原糸状菌の薬剤耐性機構の解明
    予算区分 :経常,国際協力(薬剤耐性遺伝子)
    研究期間 :平成10年度(平8〜12年)
    発表論文等:
       1) 各種植物から分離された炭疽病菌の薬剤感受性その他諸性質の比較(講要),
                日植病報 64 (1998)
       2) 病原糸状菌のβ-チューブリン遺伝子の罹病植物体からのPCR増幅と1塩基置換の検出,
                日植病関東部会講要集 27 (1998)
       3) Comparative studies on fungicide sensitivity and other characteristics in Colletotrichum 
              isolated from various plant species. Proceedings of the 1998 Brighton Conference-Pests & 
                 Diseases  (1998)
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