Pseudomonas fluorescens W8a によるコムギ立枯病の発病抑制における抗菌物質生産の役割


[要 約]
 コムギ立枯病を抑制する根圏細菌菌株(W8a)のトランスポゾン挿入変異株から選抜したピロールニトリン及び蛍光性物質生産欠失株が拮抗作用及び発病抑制効果を低下させることから,これら抗菌物質が生物的防除に重要な役割を有する。
[担当研究単位]北海道農業試験場 畑作研究センター 環境制御研究チーム
[部会名] 農業環境・農業生態,総合農業・生産環境,北海道農業・生産環境
[専 門] 作物病害
[対 象]
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 畑作物の土壌病害に対し,根圏細菌等の拮抗微生物を利用した生物的防除法の開発が試みられている。本研究においては,コムギ立枯病の抑制に有効な根圏細菌Pseudomonas fluorescens W8a菌株の拮抗機構を知るために,本菌株が生産する抗菌性物質の検出法を開発し,それらの発病抑制における作用特性を明らかにすることを目的とする。
[成果の内容・特徴]
  1. W8a菌株の生産する抗菌性物質であるピロールニトリン,蛍光物質及びシアン化物の簡易検出法を利用して,W8a菌株にmini-Tn5 を挿入して作出した抗菌性物質非生産株を選抜した (表1)。
  2. それらの菌株から抽出したDNAを制限酵素で切断し,サザンブロット解析を行ったところ,どの菌株でも少なくとも1カ所にトランスポゾンの挿入が認められた(図1,2)。
  3. コムギ立枯病の抑制効果は,ピロールニトリンまたは蛍光物質生産欠失株において著しく低下し,シアン化物非生産株においてはやや低下した(図3)。
  4. 種子コーティングしたいずれの菌株も,播種後4週目の根圏に良く定着し,乾燥根重1g当たり1.5×105 〜3.7×106 コロニー形成単位で検出され,その菌数は接種菌株以外の他の蛍光細菌とほぼ同数であり,総細菌数の0.1〜1.5%を占めた。
  5. 以上の結果より,根圏細菌W8a菌株によるコムギ立枯病の生物的防除効果には,本菌株が生産するピロールニトリン及び蛍光性物質が重要な役割をもつことが明らかにされた。
[成果の活用面・留意点]
 コムギ立枯病等の土壌病害の生物的防除法の開発に当たって,ピロールニトリンや蛍光性物質生産性を指標としてコムギ立枯病の生物的防除に有効な根圏細菌菌株の探索に利用できる。

具体的データ


[その他]
    研究課題名:土壌病害に対する根圏細菌の拮抗作用の解明と利用技術の開発
    予算区分 :大型別枠(生態秩序)
    研究期間 :平成10年度(平成8〜10年)
    発表論文等:
       1)Substance-deficient mutants of Pseudomonas fluorescens W8a created by transposon 
           mini-Tn5 and their suppression against wheat take-all caused  by Gaeumannomyces graminis
           var. tritici. 第4回PGPRワークショップ  (1997) 
       2)Production of antifungal substances by Pseudomonas Fluorescens W8a isolated from wheat
          root of continuously cultured fields plants. 第7回  国際植物病理学会講要 (1998) 
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