中国半乾燥地における砂固定林による砂漠化土壌の肥沃度回復
- [要 約]
- 中国半乾燥地における流動砂丘固定化のための植林は,風によって供給される微細粒子を捕捉し,土壌有機物の蓄積を促進することによって土壌肥沃度を回復させる。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境資源部 土壌管理科 土壌保全研究室
[部会名] 農業環境・地球環境
[専 門] 土壌
[対 象]
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- 中国北東部の半乾燥地では,土壌は砂質で養水分供給力が低く,過放牧などにより植生が破壊されると強風により容易に流動砂丘が形成される。流動化した砂丘は植生の定着を妨げるとともに,既存の植生を埋没させ,砂漠化を促進する。このため,内モンゴル自治区ナイマン旗(年降水量370mm)の流動砂丘地に20年前に植栽された幅300m,
樹高10mのポプラ林周辺において,林の北西季節風風上の流動砂丘(風上),林内風上,林内中央,林の風下の草が密生している固定砂丘(風下)で土壌調査・分析をおこない(図1),砂漠化回復対策としておこなわれている面状の砂固定林の効果を土壌肥沃度回復の面から解析した。
- [成果の内容・特徴]
- 表層土壌中の微細画分(シルト+粘土)含量は,林内や風下でいずれも風上より高く,林内風上>林内中央>風下の順であった(図2)。 また,土壌断面内においては林内中央で深さ30cm,風下で 10cm程度まで微細画分含量の増加が見られ,それより下層では地点間の差がほとんどなく,現流動砂丘の粒径組成と同じであった。これらのことから,林内や風下では風食が防止されるとともに,風上から供給された微細粒子に富む土壌が捕捉され,平均約1cm/年の微細粒子に富む新たな堆積が生じたと推定できた。
- 土壌中の有機物含量も微細画分と同じ傾向であり,微細画分含量との間に高い相関がある ことから,植生の発達により有機物の供給が増加するとともに,それが微細粒子と有機無機複合体を形成することによって腐植の集積が促進されたと考えられる(図3)。
- 土壌表層20cmまでの可給態窒素量やリン酸量および有効水分量は林内>風下>風上の順であり,微細粒子および有機物の蓄積量と関係していた。ポプラ林内のこれらの量は,当地域の持続的に維持されている畑地の値とほぼ同程度に回復していた(図4)。また,植栽後13年の隣接する松林とポプラ林を比較すると,土壌中の微細粒子や有機物の蓄積量は,生長が速く樹高が高いポプラ林で高い値を示した。
- このようなポプラ林の外周を防風林帯として残して内部を伐採し,林内を農地として利用する現地の土地利用法が妥当であることが示された。
- [成果の活用面・留意点]
- 本成果は中国の半乾燥地でも比較的地下水位が高く,ポプラの生長の速い地域に適用できる。

[その他]
研究課題名:砂漠化防止対策効果の環境立地的評価手法の開発に関する研究
予算区分 :環・地球環境(砂漠化防止)
研究期間 :平成7年〜9年度
発表論文等:1)中国北東部の風食地域における防風林植栽が土壌特性に及ぼす影響,日土肥
講要 44(1998)
2)Land degradation and soil properties in Naiman,Inner Mongolia,China,
Proceeding of Japan-China Workshop on Land Evaluation of Prevention
and Remedies for Desertification(1998)
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