酸性沈着による土壌化学性変化予測のためのダイナミックモデル

[要　約]
　土壌中での化学反応過程と物質収支に基づいて，大気からの酸性物質の負荷による土壌化学性変化を経時的に推定するダイナミックモデルを作成した。フィールド調査結果への適用により，土壌水濃度変化への鉱物風化や養分吸収によるイオンの供給，消費の寄与が生態系により異なることが示された。
[担当研究単位]農業環境技術研究所　企画調整部　地球環境研究チーム
[部会名]　農業環境・地球環境
[専　門]　環境保全
[対　象]　　
[分　類]　研究
[背景・ねらい]
化石燃料の燃焼により排出される酸性物質の生態系への影響が懸念されている。生態系では土壌水や吸着相における化学的過程による酸緩衝作用が働くとともに，酸や塩基性物質が大気，植物，土壌間を常に循環している。欧米ではこのような過程を考慮した将来予測のためのモデルがいくつか作成されているが，硫酸吸着など日本の土壌で重要な過程の扱いが十分でないことなどから，日本への適用には問題があると考えられている。また酸性降下物による影響評価のためには，養分循環や化学反応過程の寄与を定量的に把握することが必要であり，このための土壌ダイナミックモデルを作成する。
[成果の内容・特徴]
  1. モデルはイオンの土壌への流入，植物吸収や鉱物風化による土壌内での供給（消費），図１に示した化学過程に基づいて，土壌水中および吸着態の各イオンの濃度を経時的に推定する。本モデルの特徴は，硫酸吸着や有機酸による酸中和過程を含むこと，一部の過程のみを使った推定により各生態系で寄与の大きい過程を推測できることである。
  2. 観音台（淡色黒ボク土；アカマツ林）と八郷（花崗岩質褐色森林土；落葉広葉樹林）において，林内外雨，土壌有機物層（Ｏ層）浸透水，土壌水などを定期的に採取した。土壌Ａ，Ｂ層での１年間のイオン収支（図２）に基づいて，年間流出量が観測値とほぼ等しくなるように，土壌各層での各イオンの正味の供給量（△）を仮定して，モデルを適用した。
  3. アカマツ林（観音台，図３）では，△を年間一定とした場合，土壌水pH，土壌水中NO3や塩基濃度の変化が再現された。養分吸収と有機物分解や鉱物風化の季節変化が相殺され，濃度は土壌層へのO層からの流入量に依存して変化した。土壌pHは陽イオン交換反応が寄与しない場合は大きく変動し，陽イオン交換反応の考慮が重要であることが分かった。
  4. 落葉広葉樹林（八郷）では，△を年間一定と仮定した場合には，イオン濃度の推定値は冬季に過小，春〜夏季に過大となり，△に図４(a)に示す季節変化を仮定することにより土壌中イオン濃度の変化を再現することができた（図４(b)）。ここでは植物による養分吸収の季節変化が有機物分解や鉱物風化の季節変化に比べて大きく，土壌中でのイオンの供給（消費）速度の変化が土壌水濃度へ与える影響が大きいことが示された。
[成果の活用面・留意点]
　本モデルにより，土壌水の濃度変化に基づいてイオン収支や反応過程の寄与を評価することができた。将来予測に用いる場合には，対象地域へのモデルの適用性を検証すること，養分吸収・鉱物風化などによる元素の供給・消費速度に関する妥当な推定値を与えることが必要である。

具体的データ

[その他]
研究課題名：酸性物質の土壌影響モデルによる臨界負荷量推定に関する研究
予算区分　：環・地球環境（酸化物質）
研究期間　：平成10年度（平成8〜10年）
発表論文等：１）酸性沈着による土壌化学性変化のダイナミックモデルによる予測 −モデルの
　　　　　　　　概要と土壌酸性化実験への適用による評価−，日本土壌肥料学雑誌 69 (1998)
　　　　　　２）Model Application for assessing the ecosystem sensitivity to acidic
　　　　　　　　deposition based on soil chemistry changes and nutrient budgets, 
　　　　　　　　Proceedings of VII International Congress of Ecology (印刷中) (1999)
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