ヨウ素の土壌−土壌浸透水−浅層地下水系での蓄積と溶脱の実態解明


[要 約]
 表層土壌中に存在するヨウ素の大部分は,水田では夏期湛水下の還元条件下で土壌浸透水に溶出し下層へ溶脱するのに対し,畑地,林地などの酸化的条件下では土壌に吸着され蓄積する。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境管理部 計測情報科 分析法研究室                                                                         
[部会名] 農業環境・環境評価・管理
[専 門] 環境保全 
[対 象] 
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 ヨウ素に関わる重要な問題として,長寿命放射性ヨウ素(129I;半減期1700万年)の環境中への蓄積・放射線被曝,また安定ヨウ素(127I)欠乏による人間・家畜の甲状腺肥大症,過剰による作物の生育障害など,重要な問題が生じている。放射性ヨウ素,安定ヨウ素とも大気経由で主として降水に伴われて地表に供給されるが,長期的にどの程度土壌層に蓄積,あるいは地下水層へ溶脱するかの解明が求められている。そこで,水田,畑地,林地に浅層地下水面までの深度別土壌浸透水と浅層地下水を採水するシステムを作り,放射性及び安定ヨウ素の土壌−土壌浸透水−浅層地下水系での蓄積・溶脱などの動態を安定ヨウ素を通じて解析する。
[成果の内容・特徴]
  1. 水田,畑,林地の表層(0〜40cm)土壌中のヨウ素(安定ヨウ素)濃度は林地60>畑40≫水田3ppmである。このことは表層土壌へのヨウ素の蓄積が林地や畑地で多く,水田では少ないことを示唆している(図1)。北海道から南西諸島までの全国的な土壌中ヨウ素濃度のサーベイ結果でも水田表層土のヨウ素濃度は畑地・林地などより1桁前後低くなっていた。
  2. 表層土壌浸透水(20,50cm)中のヨウ素濃度は,林地が0.1ppb前後,畑地が0.5〜5ppbで,いずれも降水の平均的濃度5ppbより低く,林地や畑地の土壌では降水起源ヨウ素が蓄積することを示唆している(図1)。一方,水田,特に夏期湛水下(かんがい期)では20ppb前後とかんがい水(霞ヶ浦水)中の10ppb前後より高く,非かんがい期に土壌に蓄積したヨウ素が溶脱したためと考えられる。(図1,2)。
  3. 水田の表層(特に20cm)土壌浸透水中のヨウ素濃度は,夏期(高温)湛水下で還元化(酸化還元電位 Eh=+200mV)が進むにつれて著しく高まり,9月上旬の落水直前(Eh=-180mV)に最高レベル(50ppb以上)に達し,落水後は急減する。一方,冬期(低温)にかんがい水を入れ湛水化しても還元化は進まず(Eh=+300mV以上),土壌浸透水中ヨウ素濃度は,その前後の非湛水条件下と同レベル(5ppb以下)に留まる(図2)。この場合,ヨウ素の土壌浸透水中の化学形態も酸化的条件下で優勢となるIO3-が70〜80%を占め,還元的条件下で大量に溶出してくるIは10〜 20%にすぎず,畑地や林地と近似している。
[成果の活用面・留意点]
 安定ヨウ素についての成果ではあるが,長寿命放射性ヨウ素129Iの動態としてもそのまま利用可能である。129Iの農耕地における土壌−地下水系での蓄積・移行などの動態,放射線被曝線量評価のための知見としても活用できる。

具体的データ


[その他]
研究課題名:放射性ヨウ素の土壌蓄積性と浸透性の定量的把握
予算区分 :原子力[放射性ヨウ素]
研究期間 :平成10年度(平成3〜14年)
発表論文等:1)Climate influence on the transfer of radio and stable iodine in soil. 
        Proceedings of International Meeting on the Influence of Climatic Characteristics
        upon Behaviour of Radioactive Elements, Institute for Environmental Science (1998)
      2)ヨウ素の野外環境下での土壌中動態,「環境中微量物質動態」専門研究会報告書, 
        京都大学原子炉実験所 (1998)
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