水田の大気−土壌間のガス輸送に対する田面水の遮断効果


[要 約]
 間断潅漑されている水田では,湛水時の大気CO2の吸収量が落水時に比べて増加し,CH4の放出量が減少する。湛水時と落水時のフラックスの比較により,その原因は田面水が土壌−大気間のガス拡散を遮断することであると推定される。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境資源部 気象管理科 気象特性研究室
[部会名] 農業環境・環境資源特性
[専 門] 農業気象
[対 象] 水稲
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 田面水は水田のガス交換や炭素収支に大きな影響を及ぼしていると考えられるが,その影響は多岐にわたるため,不明な点が多い。本研究では,田面水が水田のガス交換に及ぼす影響を,塩類集積防止のため4日間湛水,3日間落水というサイクルで間断潅漑を実施中の干拓地水田(品種はあけぼの,出穂約1ヶ月前,除草剤散布から約40日後で田面に藻が繁茂)を対象に,湛水期間(水深約10cm)と落水期間(表面排水)の大気中ガス濃度プロファイルやガスフラックスの比較観測によって明らかにした。
[成果の内容・特徴]
  1. 群落内でのCO2とCH4の濃度勾配は,昼夜とも,落水時の方が湛水時より大きい(図1)。
  2. 群落上のCO2フラックスを比較すると,落水時の日中の吸収量は湛水時の約80%,夜間の放出量は約2倍であった(図2a)。この結果,落水時の水田による大気CO2の日吸収量は湛水時の半分以下(14.5g CO2 m-2)であった(図2b)。
  3. 水時の土壌面からのCO2の日放出量は約23g CO2 m-2で,湛水時の水面上のフラックスより2桁大きかった(図2c)。落水時と湛水時との群落上のCO2フラックスの差(図2a)は,昼夜とも,土壌面からのCO2放出量とほぼ等しかった。夜間の地温は落水日の方が約1℃低く(図2e),落水日の夜間のCO2フラックスの増加は土壌微生物や水稲根部の呼吸速度の上昇が原因ではない。
  4. 上の結果から,落水時と湛水時のCO2収支の差(図2b)は,田面水が土壌面から大気への拡散によるCO2輸送を遮断したことが原因であると判断される。
  5. 面水の溶存CO2濃度は,夜間は約2000ppmまで上昇し,日中は約300ppmまで低下した。水温の日変化等の影響も含めて検討した結果,湛水時に土壌面から放出されたCO2は田面水に溶解し,藻類等の光合成で消費されたと推定される。
  6. 水時のCH4の日放出量は落水時の約60%に減少した(図2d)。CO2の場合と同様に,田面水による拡散の遮断が原因と推定されるが,CH4は湛水時でも水稲を経由して大気中に放出されるため,落水時と湛水時のフラックスの差がCO2ほど顕著ではないと考えられた。
[成果の活用面・留意点]
  1. 成果は水田におけるガス輸送モデル構築のための基礎資料となる。
  2. 稲の生育段階や湛水深により,CO2やCH4の日収支が量的に異なる可能性がある。

具体的データ


[その他]
研究課題名:気微量気体の大気・海洋中濃度・組成の変動に関する観測的研究
予算区分 :海洋・地球〔地球温暖化〕
研究期間 :平成11年度(平成2〜11年度)
発表論文等:Carbon dioxide and methane fluxes from an intermittently flooded paddy field,
      Agricultural and Forest Meteorology, 102(4), 287-303(2000)
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