ヘッドスペースガス分析による溶存亜酸化窒素測定法


[要 約]
 畑地地下水・暗渠排水・湧水・河川水などを対象とした,オストワルド溶解度係数に基づく溶存亜酸化窒素のヘッドスペースガス分析による測定法を開発した。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境資源部 水質管理科 水質保全研究室
[部会名] 農業環境・環境資源特性
[専 門] 環境保全
[対 象] 
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 亜酸化窒素は温室効果ガスであり,農業生態系における亜酸化窒素の動態解明が進められている。しかし,地下水を経由する亜酸化窒素の動態についての研究は難しく,進んでいない。これは,簡便な溶存亜酸化窒素測定法がなかったことも一因である。そこで,オストワルド溶解度係数に基づく溶存亜酸化窒素のヘッドスペースガス分析による測定法を開発した。
[成果の内容・特徴]
  1. ヘッドスペースガスが採取できる密閉容器を,市販の注射針(テルモスパイナル針18G)を用いて作成した(図1)。
  2. 測定溶液を密閉容器に取り,ブチルゴム栓で密閉後,一定温度で1時間振とうして気液平衡にした後,気相(ヘッドスペース)中の亜酸化窒素濃度を測定する。溶存亜酸化窒素濃度の計算に必要なデータは,気液平衡後の気相中亜酸化窒素濃度の他に,気液平衡時の温度,液相体積,気相体積,密閉容器内圧,大気中亜酸化窒素濃度である(表1)。
  3. 各温度におけるオストワルド溶解度係数,理想気体1モル体積,大気中亜酸化窒素濃度,水中における大気平衡濃度の値を示す(表2)。
  4. 上記方法で,25℃で亜酸化窒素濃度240ng/mLの気相と平衡している試水の溶存亜酸化窒素濃度を測定した(図2)。その結果,溶存亜酸化窒素濃度は,密閉容器中の液相率にかかわらず,ほぼ期待値である141ng/mL(0.588×240)となった。
  5. 水田暗渠排水を,現地で密閉容器に採取して当日分析した結果(図3A)と,ポリビン上部に気相を作らないように(密栓して)採取し持ち帰り当日分析した結果(同B)は同じ溶存亜酸化窒素濃度となった。しかし,ポリビン上部に気相を含む状態で持ち帰ると当日分析しても濃度は低下した(同C)。ポリビンに採取する場合は上部に気相を作らないようにする。
  6. 亜酸化窒素は,土壌などの固相には吸着されないので,固相体積を考慮することにより,土壌を含む試料中の亜酸化窒素量を測定することができる。
[成果の活用面・留意点]
  1. オストワルド溶解度係数は,pHには影響されないが,塩類濃度には影響される。しかし,その程度は0.5mol/L塩化カリで0.588→0.527(25℃)なので,0.01mol/L程度の天然水を対象とするときは無視できる。
  2. ゴム栓をすることにより,さらに温度変化によって内圧が変化するので,密閉容器内圧をコパルハンディマノメータなどで測定する。
  3. テルモスパイナル針の穴を貫通することができるガスタイトシリンジはSGE製などである。

具体的データ


[その他]
研究課題名:農林生態系の有する水質浄化機能の評価とその強化技術の開発
予算区分 :経常
研究期間 :平成11年度(平成8〜13年度)
発表論文等:土壌を含む気液平衡系における亜酸化窒素溶解度,日本土壌肥料学雑誌,70 (1999)
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