イネもみ枯細菌病菌の毒素産生遺伝子群の構造と毒素生合成経路
- [要 約]
- イネもみ枯細菌病菌の毒素,トキソフラビンの産生遺伝子群は,5つの遺伝子からなるオペロン構造(toxオペロン)を構成している。トキソフラビンは,グアノシン三リン酸(GTP)を出発物質として生合成されることを推定した。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境生物部 微生物管理科 寄生菌動態研究室
[部会名] 農業環境・農業生態
[専 門] 作物病害
[対 象] 微生物
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- イネもみ枯細菌病菌(Burkholderia glumae )は,イネにおいて苗腐敗症やもみ枯病を引き起こし,箱育苗の普及とともに発生域を拡大し,気象条件によっては突発的に大きな被害を与えている。本菌の病原性の解析にあたり,ここでは病原性関連因子として報告されている黄緑色の毒素,トキソフラビンの産生性に着目した。これまでのところトキソフラビンの生体内での合成経路や産生に関わる遺伝子の情報は全く得られていないことから,本研究においてはトキソフラビン産生遺伝子の解析を行い,その生合成経路を推定する。
- [成果の内容・特徴]
- 二次元電気泳動法で,毒素産生菌と非産生菌のタンパク質の発現パターンを比較したところ,毒素産生菌に特異的な2つのタンパク質(TRP-1,TRP-2)を特定できた(図1)。
- 特定したタンパク質について,N末端及び内部の一部アミノ酸配列を決定し,そのアミノ酸配列に基づいて作製したプライマーを用いてPCR反応を行ったところ,TRP-1についてはコード領域の一部を増幅することができた。塩基配列の解析を進めたところ,TRP-1のコード領域周辺は5つの遺伝子からなるクラスターを形成しており,転写単位であるオペロン(toxオペロン)として働いていることが示された(図2)。また,TRP-2もtoxオペロン内にコードされており,TRP-1とともに同一の制御を受けている。
- 野生株のtoxオペロン内に挿入変異を導入し作出した遺伝子破壊株では,毒素産生が喪失したことから,toxオペロンが毒素産生に関与することを明らかにできた。
- データベースを用いて相同性解析を行った結果,TRP-1はメチル基転移酵素であることが推定できた。さらにtoxオペロン内のtoxB,toxE がそれぞれグアノシン三リン酸(GTP)の加水分解酵素及び脱アミノ酵素と高い相同性を示したことから,トキソフラビンは,GTPを出発物質として5つの反応を経て生合成されるものと推定した(図3)。
- [成果の活用面・留意点]
- 細菌毒素が関わるような病原菌の病原性のメカニズムを解明するためには,toxオペロンの制御機構の解析が有力な手段となる。
- 単離した遺伝子をマーカーとして毒素産生菌の検出への利用が可能となる。

[その他]
研究課題名:Pseudomonas glumae及びその類縁菌の病原性関連遺伝子の検索と単離
予算区分 :バイテク〔病原遺伝子〕
研究期間 :平成11年度(平成7〜12年度)
発表論文等:1)Identification of proteins involved in toxin production by Pseudomonas glumae.
Ann. Phytopathol. Soc. Jpn., 64 : 75-79 (1998)
2)Molecular characterization of toxoflavin biosynthesis-related genes in Pseudomonas
(Burkholderia) glumae. Ann. Phytopathol. Soc. Jpn., 64 : 276-281 (1998)
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