芳香族塩素化合物を分解する土壌細菌とその分解遺伝子の多様性
- [要 約]
- 芳香族塩素化合物であるクロロ安息香酸を好気的に分解する土壌細菌を単離して同定した結果,主要な分解菌はProteobacteria のβ-グループに属することが示された。芳香族塩素化合物分解の中心経路である修飾オルソ開裂経路をコードする遺伝子は,その相同性から複数のクラスターに分けられる。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境生物部 微生物管理科 土壌微生物利用研究室
[部会名] 農業環境・農業生態
[専 門] 土壌
[対 象] 微生物
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- 芳香族塩素化合物は種々の環境問題を引き起こしている代表的な汚染物質であり,炭素−塩素結合が安定なため難分解性であるが,多様な土壌微生物の中にはこうした芳香族塩素化合物を分解できるものが存在する。分解菌の系統分類や分解遺伝子の多様性の解析は,分解菌の生態や進化・適応機構のみならず,汚染に対応した分解遺伝子の地理的拡散などを知る上で重要である。ここではクロロ安息香酸分解菌を分離し,多様な土壌細菌の系統関係と分解能の関係を明らかにする。また,芳香族塩素化合物分解の後半を担う修飾オルソ開裂経路(クロロカテコール分解経路)の遺伝子の多様性を解析する。
- [成果の内容・特徴]
- クロロ安息香酸分解菌を分離し,16SrRNAの配列から系統分類上の位置を明らかにした。その結果,Ralstonia 属 (NH9株),Burkholderia 属 (NK8,TH2株),Pseudomonas 属(NFm1株)など,Proteobacteria (α,β,γ-グループ)に属する菌が多数分離された。他のグループの報告と合わせ,系統的にこれらの菌が,酸化的にクロロ安息香酸を分解する主要な分解菌であることが示された。
- 修飾オルソ開裂経路遺伝子群を,Ralstonia eutropha NH9株,Burkholderia sp,NK8株,Variovorax paradoxus TV1株などからクローニングし,解析した。その結果,既知のtcb,tfdI,tfdII 遺伝子群とそれぞれ相同性を示すクロロカテコール分解遺伝子群が見いだされた(図1,2)。同遺伝子群はいずれもプラスミド上にあり,土壌微生物は遺伝子伝達(遺伝子交流)やDNA再編成により,限られた遺伝子を2,4-D分解やクロロ安息香酸分解など種々の目的に利用していること,また,高い相同性や特殊な構造を示す分解遺伝子が世界各地で見つかることから,一部の分解遺伝子は近年世界的に分布したことが示された。
- クロロカテコール分解の初発分解酵素であるクロロカテコールジオキシゲナーゼは系統上4つのクラスターに分けられた。クラスターごとに特徴ある基質特異性を示したことから,酵素の系統関係と分解能(基質特異性)の間に一定の関係が認められた。
- [成果の活用面・留意点]
- 土壌微生物の系統関係と分解遺伝子の分布を知る上での基礎資料である。得られた配列から分解遺伝子検出のプローブやプライマーが設計でき,分解遺伝子の分布(地理的分布)の解明に利用できる(環境指標遺伝子としての利用)。
- 遺伝子(酵素)の構造と分解能の関係を解明して分解能を改良するための,基礎となる知見である。

[その他]
研究課題名:単環芳香族塩素化合物分解系の多様性と分解機構に関する研究
予算区分 :基礎研究推進事業〔環境微生物〕
研究期間 :平成11年度(平9〜13年度)
発表論文等:The chlorocatechol-catabolic transposon Tn5707 of Alcaligenes eutrophus NH9,
carrying a gene cluster highly homologous to that in the 1,2,4-trichlorobenzene-
dagrading bacterium Pseudomonas sp. strain P51, confers the ability to grow on
3-chlorobenzoate. Appl. Environ. Microbiol. 65(2)(1999)
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