気候変化に伴うアジアにおける農耕地気候資源量分布の変化


[要 約]
 地球規模の気候変化に伴うアジアにおける農耕地の気候資源量分布の変化を推定した。大気中二酸化炭素濃度が倍増すると予想される2060年代では,インドなどの低緯度地域においては湿潤な農耕地の面積が増加すると推定された。また特に中国においては,全国的には湿潤な農耕地面積が増加するが,東北地域では乾燥した農耕地面積が増加すると推定された。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 企画調整部 地球環境研究チーム
[部会名] 農業環境・地球環境
[専 門] 環境保全
[対 象]  
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 地球温暖化等の気候変化が農業生態系に及ぼす影響が懸念されている。特に人口の多いアジア地域の農耕地において,作物の栽培に必要な自然資源の分布がどのように変化するかを評価することは重要な課題である。
 ここでは,アジアで現在農耕地として使用されている地域における気候資源量(気温および降水量などの気候条件からみた農業生産の資源量)の現状と将来の地理的分布を推定し,その変化の特徴を明らかにする。
 温度資源に関する量として月平均気温0度以上の有効積算気温(SDD),水資源に関する量として降水量とPenman-Monteith式から推定した潜在(ポテンシャル)蒸発散量との差(P-PET)を指標として用いた。なお積算期間は一年間とした。
[成果の内容・特徴]
  1. 図1は現在の気候条件における農業気候資源量の地理的分布を示している。また図2は大気中二酸化炭素濃度が倍増すると予想される2060年代での気候条件における農業気候資源量の分布を示している。凡例中の番号は図3に示す有効積算気温と降水量・潜在(ポテンシャル)蒸発散量差とで分類した気候資源量区分を表している。
  2. 図3は現在農耕地として利用されている地域において,各気候資源量区分に属する農耕地の面積を示している。現在の気候条件における面積と,あわせて気候変化後(2060年代)における面積を示した。図よりSDDが8000以上のインドなどの熱帯地域に分布する乾燥した気候資源量区分1に属する農耕地面積が減少し,より湿潤な気候資源区分4に属する農耕地面積が増加すると推定された。
  3. 図4は中国の集計結果である。図3と同様に各気候資源量区分に属する農耕地面積の変化を表す。中国全体として降水量の増加により湿潤な気候資源区分3,7の面積が増加する。しかし,東北部の畑作地帯では高温で乾燥した気候資源量区分5に属する地域が増加すると推定された。
[成果の活用面・留意点]
  1. 地域ごとに作物の栽培期間を考慮した気候資源量の変動予測,および広域的に利用可能な水資源を考慮に入れた栽培可能地域の推定手法の開発に活用する。
  2. 本推定は気候条件のみに基づくものであり,土壌条件等の地表面の情報を取り入れた農耕地資源量評価法の開発が必要である。

具体的データ


[その他]
研究課題名:高精度観測衛星を利用した地球温暖化に伴うアジアの食糧生産変動の予測手法の高度化
予算区分 :行政対応特研〔リモセン〕
研究期間 :平成11年度(平成10〜13年度)
発表論文等:気候変動シナリオからみたアジアの農業生産力変動,システム農学 15(1999)
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