地域計画のための環境保全機能の総合的評価単位としての集落域
- [要 約]
- 複数の環境保全機能を総合的に評価し,地域計画に反映させるための評価単位としての集落域の有効性を,水系次数に基づいた小流域区分と比較して検討した。その結果,集落域は,国土保全機能の評価に必要な2次以下の低次な流域区分に相当し,とくに中山間地域では環境保全機能を総合的に評価する単位として有効であった。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境管理部 資源・生態管理科 農村景域研究室
[部会名] 農業環境・環境管理・評価
[専 門] 環境保全
[対 象]
[分 類] 研究
- [背景・ねらい]
- 農業・農村のもつ多面的機能の十分な維持・発揮をはかるためには,環境保全機能を生活条件や生産条件と比較可能な形で総合的に評価し,地域計画を反映させる必要がある。この場合,実際の農村空間では,様々な農林地が混在しているため,評価単位の大きさが重要な問題となる。ここでは,国土保全や景観保全などの即地的な機能をとりあげ,土地の自然条件を反映しうる流域と,生活と生産からみた地域計画で多く用いられる集落域とを比較する。これにより,環境保全機能を総合的に評価するための空間単位としての集落域の有効性を検証する。
- [成果の内容・特徴]
- 埼玉県都幾川流域をモデル地域とし,地形,土地利用などのメッシュデータ(1辺約100m)と既存の評価手法(加藤,1998,田野倉ら,1999)を用いて,国土保全(水かん養,土砂崩壊防止,土壌侵食防止,大気浄化)と景観保全(広がり感,自然感)に関する6機能をメッシュごとに評価した。また,総合的評価のための単位として集落域(1990年農林業センサスの農業集落の領域)と流域を区分した。流域は,地形図に示された河川とStrahlerの水系次数に基づく様々な空間スケールで区分した(図1)。
- 様々なスケールの流域,集落域ごとに,農林地分布の類型化,類型間の機能値の差の検定(SPSS8.01Jによる分散分析)を行なった。F値,多重比較による等質サブグループ数が大きいほど,類型間の機能差が大きく,当該スケールの有効性が高い。その結果,国土保全機能は2次以下の低次流域,景観保全機能は4次流域が有効と考えられた(図2)。様々な機能を総合的に評価する場合,必要とされる最小の単位を用いることが必要である。また,高次流域は低次流域の統合により把握できる。したがって,環境保全機能の総合的な評価には,2次以下の流域区分が有効である。集落域は2次以下の低次流域とほぼ同等であった。
- 集落域と低次流域の領域の重複度(図3)は,山地が優占する集落類型(C,D,E)で大きかった(図4)。したがって,山地が優占する中山間地域では,国土保全や景観保全など即地的な機能を総合的に評価するための単位として集落域を用いることの有効性が示された。
- [成果の活用面・留意点]
- 本結果は,環境保全機能の評価に基づく中山間地域の計画手法の開発に適用できる。
- 本研究の結果を低地や台地などの平地へ応用するためには,様々な環境保全機能の総合化手法,ならびに集落域と流域の対応関係について,今後さらに検討する必要がある。

[その他]
研究課題名:ランドスケープパターン解析による農林地の環境保全機能評価手法の開発
予算区分 :総合研究〔農村経済活性化〕
研究期間 :平成11年度(平成9〜11年度)
発表論文等:環境保全機能の評価から見た農村ランドスケープの空間スケール,農村計画論文集
第1集(農村計画学会誌18巻別冊),313-318(1999)
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