土壌中の水溶態カドミウム等の湛水による濃度変動とその溶存形態


[要 約]
 水溶態重金属の溶存形態分析法を開発し,土壌の湛水による水溶態カドミウム,銅および亜鉛の濃度変動と各元素の溶存形態を明らかにした。水溶態カドミウムのイオン形態は陽イオン画分が多く,湛水により溶存濃度は顕著に減少する。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境資源部 土壌管理科 土壌化学研究室
[部会名] 農業環境・環境資源特性
[専 門] 土壌
[対 象]  
[分 類] 研究・行政
[背景・ねらい]
 カドミウムは,CODEX委員会で食物中の基準値を設定することが検討されおり,また,環境 ホルモン作用も疑われていることから,環境中での挙動を早急に解明することが必要な元素である。土壌中の重金属のうち,水溶態重金属は作物に吸収される主要な形態であり,水系への移動も起こり易い。また,同じ元素であっても溶存形態の違いにより生理活性や動態の異なることが予測される。そこで,水溶態重金属の溶存形態分析法を開発し,土壌中の水溶態カドミウム,銅および亜鉛の濃度変動と,その溶存形態を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. 土壌中の水溶態重金属のイオン形態はイオン交換樹脂を用いて分別定量でき,有機態については紫外線照射分解と限外ろ過法の組み合わせにより分析できる(表1)。
  2. 重金属汚染土壌3点(淡色黒ボク土;Cd濃度1.13〜13.4mg/kg),非汚染土壌2点(淡色黒ボク土;Cd濃度0.15〜0.29mg/kg)の湛水(Eh<-150mV),畑(Eh>500mV)の水分条件における水溶態銅,亜鉛濃度には顕著な差が認められないが,水溶態カドミウム濃度は,非汚染土壌の湛水で畑の約1/10(0.263から0.021ng/mL),汚染土壌では約1/800(20.6から0.025ng/mL)に低下する(図1)。
  3. 土壌中の水溶態カドミウム,亜鉛は陽イオン画分に,銅は陰イオン画分にそれぞれ存在割合が高い(図2)。また,有機態の割合は銅が最も高く,カドミウム,亜鉛で低く(図3),水溶態銅は有機物と結合して溶存していることが示唆される。
[成果の活用面・留意点]
  1. 水溶態カドミウムならびにその溶存形態は,作物によるカドミウム吸収を評価する指標として有望であり,吸収抑制技術の評価・実証事業で,測定項目として採用することが検討されている。
  2. 土壌溶液中の重金属濃度は低濃度であるので,ポーラスカップへの吸着特性を把握することや,分析過程で試料の汚染や吸着を防ぐなど,測定値の信頼性を確保することが重要である。なお,湛水土壌中に30日以上静置したポーラスカップによる水溶態重金属の吸着はほぼ無視できる。

具体的データ


[その他]
 研究課題名 : 耕地土壌における重金属の動態に及ぼす有機物の影響の解明
 予算区分  : 経常
 研究期間  : 平成12年度(平成9〜12年)
 発表論文等 : 1)土壌中の水溶態重金属の化学形態 −HPLC・GFAASによる分析−,日本化学
           学会第77回年会講演予稿集 (1999)
         2)土壌中の水溶態重金属の化学形態分析 −有機態画分の評価−,日本土壌
           肥料学会講演要旨集,46 (2000)
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