炭疽病菌6種のPCR-RFLP法による類別と分子系統学上の位置


[要 約]
形態的に類似する炭疽病菌(Colletotrichum 属)6種は,3種類の制限酵素を用いるrDNA ITS領域のRFLPパターンの違いで識別できた。この領域の塩基配列解析から各菌種の分子系統学上の位置を明らかにし,さらに未報告の一菌群を見い出した。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境生物部 微生物管理科 微生物特性・分類研究室
[部会名] 農業環境・農業生態
     総合農業・生産環境
[専 門] 作物病害
[対 象] 微生物
     野菜類
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
炭疽病菌(Colletotrichum 属菌)は1000種を越える様々な植物の地上部に壊死斑,炭疽潰瘍,腐敗を生じさせる糸状菌である。このうち,C. gloeosporioides とその類縁菌は野菜・果樹類等の重要病原菌であるが,形態的類似点が多いために識別が困難であり,これらの菌の生態解明や防除法開発の障害となっている。そこで,形態によらない簡易な識別法を開発するとともに,分子系統学上の位置を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. 形態的に類似する6種の炭疽病菌から,ITS1およびITS4プライマーによりrDNA ITS領域のPCR産物を得た。これを5種類の制限酵素でそれぞれ切断したところ,200bp以上の産物のRFLPパターンで違いを認めた。このうち3種類を組み合わせることにより供試種の識別ができた(表1,図1)。また,従来法によりC. gloeosporioides と同定される94菌株のうちの9菌株(グループ2)は,全く異なるRFLPパターンを示した。
  2. rDNA ITS領域の塩基配列を解析したところ,新たに2種の炭疽病菌の分子系統学上の位置が明らかになった(図2)。C. higginsianum (アブラナ科炭疽病菌)は形態が類似したC. destructivum (ダイズ炭疽病菌),C. linicola (アマ炭疽病菌)と近縁であった。C. caudatum (チガヤ由来菌)は他のイネ科植物炭疽病菌(C. graminicola,C. sublineolum)と近縁であった。
  3. 全く異なるRFLPパターンを示したC. gloeosporioides のグループ2は,分子系統樹上でもグループ1とは明確に異なった(図2)。このグループ2の菌には,分生子基部に小突起があるなどC. gloeosporioides とは異なった形態的特徴が見つかり,未報告のため新種と考えられた。この菌種はC. gloeosporioides と同様に多犯性であり,メロン,ウメ,パッションフルーツ,シンビジウム,クンシラン,オオハマオモトから分離された。小笠原諸島,茨城,鹿児島などで採集された。
[成果の活用面・留意点]
  1. 炭疽病菌6種の正確で迅速な同定が可能となり,生態や防除法の研究に役立つ。
  2. C. gloeosporioides から分かれる未報告の菌群については,種の記載,分布,発生生態,寄生性などの解明が必要である。

具体的データ


[その他]
 研究課題名 : 炭疽病菌における病原性分化系統の識別方法の確立
 予算区分  : 経常
 研究期間  : 平成12年度(平成10〜12年度)
 発表論文等 : rDNA ITS 領域のPCR-RFLP による炭疽病菌の識別.日本植物病理学会報 66(2000)
目次へ戻る