ダイズのカドミウム吸収特性解明のための113Cdトレーサー試験法
- [要 約]
- 圃場条件下でダイズによるカドミウムの吸収・移行特性を簡便,正確,かつ安全に調査する試験法として,カドミウムの安定同位体(113Cd)トレーサー法を開発した。本法により,生育前期に吸収されたCdが生殖生長期にダイズ子実へ移行することを示した。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 重金属研究グループ 重金属動態ユニット
[分 類] 学術
- [背景・ねらい]
- 食品中の重金属元素濃度に関する国際的な基準値制定の動きを受けて,カドミウム(Cd)の主 要作物子実中への移行・蓄積過程の解明が急務である。Cdの吸収は土壌,気象,栽培条件等の環境要因に大きく左右されるため,ポット試験のみでは不十分であり,現地における圃場実証試験が不可欠である。本研究では,現地の圃場条件下でダイズによるCdの吸収・蓄積過程を明らかにするため,Cdの安定同位体である113Cdを直接,土壌中にトレーサーとして投与する簡便で精度の高い圃場試験法を開発する。
- [成果の内容・特徴]
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- 113Cdトレーサー法:トレーサー溶液(10 mg Cd L-1)の10 mLずつを,株元から10 cm離れた円上に,等間隔で10箇所,10 cmの深さに投与した。株あたりの投与量は1 mg Cdである。(表1.圃場試験の概要)
- ダイズ葉中のトレーサー濃度は,1回目投与区(本葉2〜3葉期)では0.06 mgkg-1まで達したが,2回目(開花期直前)以降は0.01 mgkg-1以下にまで急減した。また,1回目投与区の葉位別トレーサー濃度分布は,土壌由来のカドミウムの吸収パターンと一致した。(図1)
- ダイズ子実中のトレーサー濃度は,開花期までに与えた区で高く,最大繁茂期以降に投与した区で激減した(図2)。このことから,生育初期に葉や茎に蓄積されたCdが生殖生長期に子実へ移行することが示唆された。
- 以上のように,安定同位体トレーサー法は,時期別や部位別にCdの吸収・移行を正確に追跡できる優れた圃場試験法である。また,放射性同位体トレーサーと異なり,安全上の規制も少なく,簡便に適用できる。
- [成果の活用面・留意点]
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- 土壌や大気中の微粒子に由来するCdと簡単に区別できるので,根からの吸収だけでなく,葉面から吸収されるCdの解析にも応用できる。
- 土壌に投与する場合は,生育時期別のダイズの根系発達を考慮して,トレーサー投与の深さを2点以上取った方がより正確なデータが得られる。
- 113Cdトレーサーの測定には四重極型ICP質量分析計が必要である。
- 本試験は秋田県農業試験場の試験圃場(表層腐植質黒ボク土)で大豆品種エンレイを用いて行った。
[その他]
研究課題名 : トレーサー法によるダイズのカドミウム吸収特性の解明と品種選抜の圃場試験法の開発
予算区分 : 環境研究[環境ホルモン]
研究期間 : 平成13年(平成13年〜14年度)
研究担当者 : 川崎 晃,織田久男
発表論文等 : 1)川崎晃,他,安定同位体トレーサー利用によるカドミウムの吸収・移行の解析(2)
−113Cdトレーサーのダイズ圃場試験への適用.土肥学会講要,47,211,(2001)
2)川崎晃,他,同上主題名(3)−ダイズ圃場試験における113Cdトレーサーの移行(幼莢期調査結果).
2001年度土肥学会関東支部大会講要,14,(2001)
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