水生植物の奇形葉による水田からの除草剤流出の検出法


[要 約]
5月中・下旬におけるジュンサイやスイタグワイの展開葉の奇形は,水田で使用されるスルホニルウレア系除草剤が低濃度でかんがい水に混入することによって生じる。これら水生野菜の奇形葉の特徴と出現時期は,水田から水系への除草剤流出の一つの生物指標となる。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 生物環境安全部 植生研究グループ 植生生態ユニット,
                環境化学分析センター 環境化学物質分析研究室
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 水田に散布された除草剤は河川等に流出しないことが望まれるが,移植時や移植直後の降水時に は,水田から流出することが多い。水田からの排水は農業や生活用水として再利用されるために,植物に対して低濃度高活性のスルホニルウレア系除草剤に,とくに敏感に反応する水生作物の奇形を活用して,除草剤流出を簡易に検出する方法を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. 水田における除草剤の使用は,水稲移植1週間後に集中する。水田の代かきや移植時期は地域や水系によってほぼ決まっているため,散布時期が重なり,除草剤散布1〜2週間後に河川の除草剤濃度が一時的に高まる傾向がある(図1)。この時期に水田地帯を流下する河川水をかんがい水として,栄養繁殖させた一芽一節のジュンサイを1ヶ月間栽培することで,5月中・下旬に展開したすべての葉の縁が波打つ奇形現象を見いだした(図1)
  2. 河川水から検出された除草剤の散布濃度別の栽培試験から,ジュンサイ葉の奇形の原因はスルホニルウレア系除草剤(ベンスルフロンメチル,イマゾスルフロン,ピラゾスルフロンエチル)であった。除草剤濃度が水田の標準使用量の近くに高まると生育は長期にわたって停止し,除草剤の分解が進んで低濃度となった夏以降に,同様の奇形葉が観察された。
  3. スイタグワイを用いて実施したベンスルフロンメチルの散布濃度別の栽培試験においても,ジュンサイと同様に低濃度で葉に奇形が観察され,濃度の上昇とともに矢じり状の葉が矮小化した(図2)
[成果の活用面・留意点]
  1. 指標植物を用いた除草剤流出の検出法は,水田排水の再利用を図っている地域で活用できる。使用する指標植物は,10cm以上の水深を確保できるところではジュンサイ,それ未満ならばスイタグワイが好ましい。
  2. スルホニルウレア系除草剤によって,クワイにもスイタグワイと同様な葉の奇形が生じるので,クワイによる検出も可能である。
  3. 6月に入って水稲の後期除草剤として使用されるMPCなどホルモン型除草剤では,葉柄が捻転し葉全体が軟弱化するが,本剤による奇形とは大きく異なる。スルホニルウレア系除草剤はいずれも植物には高活性であるが,この値は環境基準値未満であり,人や動物には影響がない。

[その他]
 研究課題名 : 水田農業における生物多様性の評価
 予算区分  : 国際交流 [日韓水田持続性]
 研究期間  : 平成13年度(平成10〜13年度)
 研究担当者 : 伊藤一幸,石坂真澄
 発表論文等 : 1)Itoh, K., Bio-diversity in weeds in agro-ecosystem for rice production. In Proc.
                International Workshop on Biology and Management of Noxious Weeds for Sustainable and
                Labor Saving Rice Production, National Agriculture Research Center, MAFF, 222-236, (2000)
               2)伊藤一幸,他,スイタグワイの奇形葉発現におけるスルホニルウレア系除草剤の影響.雑草研究46(別),20-21, (2001)

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