「環境」問題は,有限という概念が世界を覆い,現実に化石燃料やエネルギーに限界があり,これらを活用することによって環境が悪化すること,すなわち地球の容量には限界があることから認識されるに至った。
「環境」を健全に維持するということは,百年単位の計画を構想し,それを実施する革命と言うことができる。例えば,10ppmを超えつつある地下水の硝酸性窒素濃度を1 ppmに低下させることや,現在の二酸化炭素濃度を,産業革命の前の280ppmにもどすには百年以上の歳月がかかる。
その上,「環境」問題は点(例えば,重金属汚染)から面(例えば,湖沼の富栄養化)を経て,空間(例えば,二酸化炭素やメタンによる温暖化)にまで及んだ。さらに,世代を越える「環境」問題がわれわれを蝕みはじめている。それはダイオキシンなどによる発育と生育への有害性がよい例である。これは,世代を越えた問題を包含している。
環境問題は,時空を超えてしまった。
一方,「農業と環境」をめぐる問題は,国内外においてますます重要になってきた。WTOやOECDなどで農産物貿易や農業政策の論議において環境保全が重視されている。IPCCの温暖化防止など地球規模の環境変動と農業の問題が重要になってきた。その中でも農業と地球の相互の関わりについては,避けて通れない現実がある。
このような背景のもとに,平成13年4月1日から農林水産省農業環境技術研究所は独立行政法人農業環境技術研究所へと装いを新たにし た。新たに発足した研究所は,「食料・農業・農村基本法」とその理念や施策の基本方向を具体化した「食料・農業・農村基本計画」と「農林水産基本計画」に示された研究開発を推進するため,
1)農業生態系の持つ自然循環機能に基づいた食料と環境の安全性の確保
2)地球的規模での環境変化と農業生態系との相互作用の解明
3)生態学・環境科学を支える基盤技術
に関する研究を重点的に推進することになった。
本書は,このような目標に沿って平成13年度に実施した研究のうち,「農業と環境」に関わる成果の一部をまとめたものである。成果の要点が簡潔に まとめられているので,細部については不明な点があると思われる。不明な点,ご意見,ご質問があれば,当所の研究企画科にお問い合わせいただきたい。皆様にとって,本書が有意義な情報となることを願いたい。
平成14年3月
(独)農業環境技術研究所
理事長 陽 捷 行