湖沼底質中ダイオキシン類の流域土地利用別寄与率の推定


[要 約]
 牛久沼流域の排水路および河川・湖沼底質中のダイオキシン類1,3,6,8-TeCDDと2,3,7,8-TeCDDの総ダイオキシン類に対する濃度比は土地利用によって異なる。濃度比に基づくエンドメンバーズ法から推定した底質ダイオキシン類TEQ量への土地利用別寄与率は,林地,水田および畑・市街地がそれぞれ,2,32および66%である。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 地球研究部 食料生産予測チーム
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 農用地土壌に収着されているダイオキシン類の起源は,燃焼施設からの排出とダイオキシン類を 不純物として含有する農薬の散布と言われている。これら土壌に収着したダイオキシン類は,土壌粒子の農用地からの流出に伴って河川や海域まで到達し,食物連鎖を介して,魚介類に蓄積することが危惧されている。そこで,農業用排水路,河川および湖沼などの連続した農業用排水系の底質中のダイオキシン類濃度および量を把握するとともに,底質中のダイオキシン類の土地利用別寄与率を推定する。
[成果の内容・特徴]
  1. 林地,水田,畑地および市街地の28地点の排水路または河川・湖沼17地点の底質中の土地利用別平均ダイオキシン類毒性等量(TEQ)濃度は,河川・湖沼の16pg-TEQ/gから畑地の37pg-TEQ/gまであるが,変動幅が大きく,土地利用間に有意な差はない(表1)。
  2. 底質中ダイオキシン類総量に対する1,3,6,8-TeCDD濃度比は,水田>林地>畑・市街地の順に高く,土地利用間で有意差が認められる。水田で 1,3,6,8-TeCDDの割合が高いのは,水田除草剤に不純物として含まれていたものの影響と考えられる。また,2,3,7,8-TeCDD濃度比は,林地で有意に高い。この傾向は,燃焼系由来と推定されるが,詳細は不明である(表1)。
  3. 河川底質のTEQ濃度には流域別の差は見られないが,1,3,6,8-TeCDD濃度比は,西谷田川が東谷田川よりも有意に高い(図1)。これは流域の水田面積率が河川の底質中のダイオキシン組成に反映したためと考えられる。
  4. 牛久沼底質中Cs-137放射能濃度の深さ分布から推定した1945年以降の堆積底質量は1,210,000t,底質中の総ダイオキシン量は4.6kg, TEQ量では9.5gである。ダイオキシン類の濃度比に基づくエンドメンバーズ法から,これらの底質堆積物やダイオキシン類への土地利用別寄与率を推定し た結果,牛久沼底質堆積物の3,34および63%が,それぞれ林地,水田および畑・市街地に由来である。また,牛久沼底質ダイオキシン類TEQ量の土地利 用別寄与率は林地,水田および畑・市街地でそれぞれ,2,32および66%である(図2)。したがって,牛久沼流域で湖沼底質へのダイオキシンTEQの面源負荷を抑制するには,水田からの濁水流出防止だけでなく,畑地や市街地からの土壌流出防止が必要である。
[成果の活用面・留意点]
  1. 土地利用別寄与率は土地利用面積率や土壌によって異なるので,湖沼別に把握する必要がある。
  2. この方法では,畑地と市街地からの土壌の流出を区分できない。また,燃焼施設から排出したダイオキシン類は土地に降下し,土壌に吸着されてから河川に流出したと仮定している。

[その他]
 研究課題名 : 農業排水系における底質中のダイオキシン類蓄積量の解明
        (牛久沼集水域における水田から農業排水系へのダイオキシン類の流出実態の解明)
 予算区分  : 環境研究[環境ホルモン]
 研究期間  : 2002年度(2000〜2002年度)
 研究担当者 : 谷山一郎・白戸康人
 発表論文等 : 1) 谷山・白戸,日本土壌肥料学会講演要旨集, 46, 98(2002)
               2) Taniyama et al.,Proceeding of International Workshop on Effects of Dioxins on Agriculture,
              Forestry and Fisheries and their Mechanisms of Action on Animals and Fishes, 129-142, NIAES
             (2002)

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