113Cd標識肥料を用いた肥料由来カドミウムの土壌負荷量の推定


[要 約]
 肥料由来カドミウム(Cd)の作物による吸収と土壌負荷量を推定するため,豆類用と水稲用の113Cd標識肥料を試製した。ダイズに吸収された全Cdのうち,11%が肥料由来であったが,それは施用したCd量の0.13%に過ぎず,残りは土壌中に負荷された。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 重金属研究グループ 重金属動態ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 カドミウム(Cd)が潅漑水,雨水,肥料,資材等さまざまな形で農耕地土壌へ負荷される。特 に,化学肥料や有機質肥料は,その原材料や使用量により,無視できない量のCdを土壌に持ち込む可能性がある。しかし,肥料等として農耕地土壌に負荷されたCdの土壌中での動態や作物による吸収・蓄積過程に関する研究は極めて限られている。本研究では,成分組成の異なる二種類の113Cd標識肥料を試製して,施用された肥料中Cdの土壌中での挙動やダイズによる吸収・蓄積の過程を追跡する。これらの解析を通じて,ダイズ等のCd吸収抑制技術の開発における113Cd標識肥料の有用性を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. リン酸液に113Cd(94.8%)硝酸溶液を混和後,石灰を加えて反応させ113Cd入りリン酸一カルシウムを調製した。これに計算量の硫安と塩化加里,および造粒促進剤のベントナイトを加えて,豆類用(N:P2O5:K2O=3:10:10)と水稲用(N:P2O5:K2O =10:10:10)の113Cd標識化成肥料を試製した。
  2. 豆類用と水稲用標識肥料中の113Cd含有量は,それぞれ87.8および88.2mg kg-1とほぼ等しく,全113Cd濃度に対するクエン酸可溶性(水溶性を除く)と水溶性113Cdの割合は,それぞれ豆類用が77%と21%,水稲用が55%と44%であり,水稲用の方が水溶性の割合は高かった(図1)。
  3. 豆類用標識肥料400gを観音台黒ボク土壌区(2m×2m)に施肥し,ダイズ品種エンレイを栽培した。収穫時のダイズ各部位の標識Cd量を測定した結果,施用された標識Cd量のうち,わずか0.13%がダイズに吸収され(表1),残りは土壌中に負荷された。ダイズが本標識肥料中から吸収した窒素(N)やリン(P)は10%前後なので,Cdの吸収率は,N,Pに比べて100分の1程度である。
  4. ダイズが一作期中に吸収した全Cdのうち,約11%が肥料由来で,残りは土壌中のCdを吸収していた(表1)。これらの結果は,Cd含量の高いリン酸質肥料や汚泥肥料を長期間にわたって連続施用すると,土壌へのCd負荷が汚染レベルに達する可能性を示唆している。
  5. 作土15cm深さにおける土壌溶液中の肥料由来Cd濃度は0.013から0.072ng mL-1,また土壌由来Cd濃度は0.06から0.22ng mL-1の範囲でそれぞれ変動し,前者は後者より常に低く,共に施肥後約1ヶ月で最も高かった(図2)。このように本標識肥料を施用し,土壌溶液中Cdの質量分析を行えば,肥料由来と土壌由来Cdを効率的に分別定量できるので,作物に吸収されやすい肥料Cdと土壌Cdの栽培期間を通したモニタリングが可能である。
[成果の活用面・留意点]
  1. この標識肥料を用いて,土壌−作物系における肥料由来Cdの挙動や収支の解明に活用できる。
  2. 試製した標識肥料の入手希望者は,共同研究を前提として本研究担当者に申請する。

[その他]
 研究課題名 : 肥料等に混在するカドミウムの一般農耕地への負荷量と作物による収奪量の把握
        (農耕地におけるカドミウム等負荷量の評価とイネ・ダイズ等による吸収過程の解明)
 予算区分  : 公害防止[微量重金属],化成肥料協会受託研究[113Cd標識肥料]
 研究期間  : 2002年度(2000〜2004年度)
 研究担当者 : 織田久男,川崎 晃
 発表論文等 : 織田ら,日本土壌肥料学会関東支部大会講演要旨集,23(2002)

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