キトオリゴ糖と特異的に作用するレセプターの検出法の開発


[要 約]
 土壌細菌の有用菌体外酵素の生産誘導物質であるキトオリゴ糖,キトビオースに対する特異的レセプターを精製するため,放射能標識キトビオースの調製法と、標識キトビオースと特異的に相互作用する物質を検出するアッセイ法を開発した。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 有機化学物質研究グループ 土壌微生物利用ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 微生物は,様々な環境シグナル物質を感知・認識し,環境の変化に応答している。例えば放線菌の有用菌体外分泌酵素キチナーゼの生産は,基質であるキチンの分解産物であるオリゴ糖の一種,キトビオースの存在を放線菌が感知してその生産が誘導される。こうした微生物の環境応答のメカニズムを解明し有効利用を図るためには,一連の環境応答の引き金になるシグナル物質の認識レセプターを明らかにすることが必要である。しかし,レセプターは細胞あたりのコピー数が少ないため,直接の単離は容易ではない。そこで,キトオリゴ糖に放射能標識を導入する手法を開発し,標識したキトオリゴ糖との特異的な相互作用を検出する高感度なアッセイ法を開発して,細胞中に微量しか存在しないシグナル応答に関与するレセプターを単離・解析する。
[成果の内容・特徴]
  1. 放射能標識した基質(3H-UDP-GlcNAc )にキチン合成酵素を作用させ標識キチンを合成し,合成した標識キチンをキチナーゼで分解してその分解産物である放射能標識キトビオースを回収するという2段階の酵素反応を用いた標識法を開発した(図1)。
  2. 放射能標識したキトビオースと各種細胞抽出画分を混合し脱塩カラムに供試し、キトビオースと結合した分子を分子量の差と放射比活性で検出することにより,キトビオースと特異的に相互作用する物質を検出するアッセイ法を開発した(図2)。
  3. 開発したアッセイ法を用いることにより,キトビオースの細胞への取り込みは,キトビオースによって誘導されること,また,このような誘導条件下では,細胞の膜画分中にキトビオースと結合する因子が蓄積してくることが明らかとなった。また,標識キトビオースを用いたアッセイ法とカラムクロマトグラフィーを駆使して,放線菌の膜画分からキトビオース結合タンパク質を精製することができた(図3)。
[成果の活用面・留意点]
  1. キチナーゼの反応条件を変えることにより,各種標識キトオリゴ糖の取得が可能となることから,本研究で得られた成果は,キトビオースだけでなく生理活性を有する各種キトオリゴ糖の作用機構の解明に役だつ。
  2. 標識キトビオースの調製の際には,標識キチンの合成及び標識キチン分解の反応条件を,予備実験で確認する必要がある。また,市販のキチナーゼの中には,キトビオースも分解してしまうものがあるので,必ず薄層クロマトグラフィーでキトビオースの生成を確認する必要がある。

[その他]
 研究課題名 : アフィニティーバインディングアッセイによる微生物の環境シグナル物質認識
        レセプターの単離・解析法の開発
        (微生物及び植物の二次代謝物等が微生物の増殖に及ぼす影響の解析)
 予算区分  : 文科省[原子力]
 研究期間  : 2002年度(1998〜2002年度)
 研究担当者 : 藤井毅,長谷部亮,宮下清貴(現生物研)
 発表論文等 : 1) Miyashita, et al., Biosci. Biotech. Biochem., 64(1), 39-43(2000)
               2) Saito, et al., Actinomycetologica, 13(1), 1-10(1999)

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