水田土壌中のダイオキシン類起源の推移
- [要 約]
- 水田土壌中のダイオキシン類濃度は,1960年代から急激に上昇し,1970年前後をピークに現在まで緩やかに減少している。1960〜1970年代のダイオキシン類の起源は,主としてPCP製剤とCNP製剤の不純物であるが,近年は燃焼・焼却過程からの寄与が増加している。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 ダイオキシンチーム
[分 類] 学術
- [背景・ねらい]
- ダイオキシン類は,主としてゴミ等の燃焼・焼却過程で発生すると考えられている。しかし,河 川や沿岸底質では,過去に水田除草剤として使用されたPCP製剤およびCNP製剤中に不純物として含まれていたダイオキシン類の影響が指摘されている。本研究では,1960年から経年的に保存されている全国5地点の水田土壌試料中の各種ダイオキシン類異性体を分析し,水田土壌中のダイオキシン類起源の推移を明らかにする。
- [成果の内容・特徴]
- 水田土壌中のダイオキシン類濃度は1960年代初期から急激に上昇し,1970年前後をピークに現在まで緩やかに減少している(図1)。
- PCP製剤とCNP製剤に不純物として含まれている主なダイオキシン類異性体は,それぞれ,OCDDと 1368-/1379-TeCDDであり,これらの異性体濃度の推移は,両製剤の出荷量(原体あたり)の推移と一致している。(図2)
- 水田土壌中ダイオキシン類異性体の年次変動を主成分分析により解析し,起源の推移を検討した(図3)。ダイオキシン類の主な起源は,1960年前後は燃焼・焼却過程であるが,1960〜1970年代はPCP製剤とCNP製剤である。1980年代以降は,再び燃焼・焼却過程で生成されるダイオキシン類の割合が増加している。
- PCP製剤,CNP製剤中のダイオキシン類異性体の減衰曲線から推定したダイオキシン類の半減期は15年程度である。
- [成果の活用面・留意点]
- 日本における水田土壌,河川及び沿岸底質等のダイオキシン類汚染の定量的把握に活用できる。
- 1999年採取試料の分析値は20〜130pg-TEQ/g,平均55pg-TEQ/gであり,環境省・農林水産省による調査結果(5.3〜180pg-TEQ/g,平均値44pg-TEQ/g)と比較すると,当該保存試料は,我が国の現在の水田土壌における汚染実態をよく反映している。
- PCP製剤は1990年に,CNP製剤は1996年に農薬登録が失効しており,現在は使用されていない。
[その他]
研究課題名 : 水田土壌におけるダイオキシン類の消失特性の解明
(イネ等におけるダイオキシン類の吸収,移行特性の解明)
予算区分 : 環境研究[有害化学物質]
研究期間 : 2003年度(2003〜2007年度)
研究担当者 : 清家伸康,大谷卓
発表論文等 : 1)清家ら,環境化学,13(1),117-131(2003)
2)清家ら,農業技術,58(2),62-66(2003)
3)清家ら,インベントリー,2,19-20(2003)
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