局地気象モデルを活用した水田の水温・地温の広域的な推定手法の開発


[要 約]
 アメダスなどのルーチン気象データ,衛星による日射量推定値,ならびに局地気象モデルによって計算される気象情報を統合化し,熱収支理論に基づいて水田の水温・地温(日平均値)の1kmメッシュ分布の実況ならびに予測値を計算する手法を開発した。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 地球環境部 気象研究グループ 気候資源ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 水田の水温・地温は,水稲の重要な生産環境の1つであり,異常気象に対応した水稲の安定生産 技術の確立や水田からのメタン発生量評価などの目的で,その広域的な推定手法の確立が求められている。そこで,アメダスなどのルーチン気象データ,衛星データ,ならびに局地気象モデルによって計算される気象情報を統合化して,水田の水温・地温(日平均値)の1kmメッシュ分布の実況ならびに予測値を計算する手法を開発する。
[成果の内容・特徴]
  1. 熱収支理論に基づき,水田の水温・地温を計算するためのモデル(以下「水田水温モデル」とする)を新たに開発した。このモデルでは,気象データ(気温,湿度,風速,日射量,下向き長波放射量)と葉面積指数LAIを入力データとして,水田の水温・地温(深さ0〜5cm)の日平均値が計算できる。日平均水温と深さ0〜5cmの日平均地温はほぼ一致するため,モデルでは両者を等しいと仮定している。北海道から九州にかけての複数地点の水田で実測したデータを用いて,生育初期から出穂期までのモデルの精度を調べた結果,平均偏差(測定値と計算値の差の平均値)の大きさが概ね0.5℃以内,2乗平均平方根誤差(RMSE)は1℃前後であった。本モデルによって,水田の水温・地温におよぼす風速とLAIの相互影響を初めて考慮することが可能となった。
  2. 水田の水温・地温(日平均値)の広域推定のために構築したアルゴリズムを図1に示す。まず始めに,局地気象モデルによる気温,湿度,風速などの計算結果を,アメダスデータや気象衛星GMSデータによる日射量の推定値と組み合わせることによって,水田の水温・地温の計算に必要な1kmメッシュ気象データを作成する。またLAIについては,1kmメッシュ気象データより水稲生育モデルを用いて計算し,水田水温モデルの入力データとする。
  3. 本手法によって推定した,東北地方における1997年6月17日の日射量ならび水田水温と気温の差の1kmメッシュ分布を図2に示す。日射量の多い地域ほど水田水温と気温の差が大きな傾向にあり,ほぼ妥当な水田水温の分布となっている。
[成果の活用面・留意点]
  1. 今回開発した手法では,日本気象協会の局地気象モデルと組み合わせることにより,水田の水温・地温の1kmメッシュ分布の実況値,ならびに51時間先までの予測値を,はじめて提供できるようになった。本手法を実際に運用すれば,異常気象時における水稲の減収・品質低下の危険を事前に察知することが可能となり,被害回避のための対策(例えば深水管理など)を効果的に実施できるようになる。
  2. モデルでは灌漑水温が水田の水温・地温におよぼす影響は考慮されていない。減水深が大きな水田では,灌漑水温が気温よりかなり低い場合(大まかな目安として日平均値で10℃以上の差がある場合)にその影響が無視できなくなり,水温は計算結果より低くなる。
  3. 水田水温はLAIに依存するので, LAIが水稲生育モデルの計算値と大きく異なる水田に適用する場合には,注意が必要である。一方、水温・地温(日平均値)の水田水深に対する依存性は小さい。

[その他]
 研究課題名 : アメダス地域気象データ等を用いた水田水温・地温の予測評価システムの開発
        (気候変動や二酸化炭素の濃度上昇による農業気候資源量の変動特性の解明と影
        響評価法の開発)
 予算区分  : 総合研究 [協調システム]
 研究期間  : 2003年度(2001〜2003年度)
 研究担当者 : 桑形恒男,石郷岡康史,長谷川利拡,米村正一郎,横沢正幸,川村 宏(東北大学),
        辻本浩史(日本気象協会)
 発表論文等 : 1)桑形ら,農業環境工学関連4学会講演要旨集,142(2002)
               2) 桑形ら,日本気象学会秋季大会講演予稿集,252(2001)
               3) 桑形ら,農業環境工学関連4学会講演要旨集,159(2001)

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