わが国の食料供給システムにおける1980年代以降の窒素収支の変遷


[要 約]
 これまでの算定システムを一部拡充して,わが国の1980年代以降の窒素収支の変遷を明らかにした。窒素の環境への総排出量は1992年をピークとして,1997年は減少している。そのなかで輸入食飼料由来の窒素量の増加はとまらず,国産由来の窒素量の減少が顕著に認められた。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 地球環境部 生態システム研究グループ 物質循環ユニット
[分 類] 行政

[背景・ねらい]
 農業環境技術研究所は,環境保全や食料自給率向上の必要性を明らかにするために,食飼料の生 産,加工,消費までのフローをモデル化した全国版養分収支算定システムを用いて,1992年までの窒素収支を公表してきた。一方,その後のわが国の食料の需給状況をみると,依然として輸入の増加が続いている。そこで,養分収支算定システムの中で魚介類等に関する算定方式を拡充して,1982年,1987年,1992年の窒素収支を再計算する。そして,新たに1997年の窒素収支を算定し,近年の窒素収支の変遷の実態を把握する。
[成果の内容・特徴]
  1. 1982年から1997年までの窒素収支の算定結果を,に示す。前回に公表した算定値との違いは,1992年の環境への総排出量で約40千tNの増加となっている。これは,主に,飼料品目の追加,食飼料品目の窒素含有率の補正及びシステムの拡充によるもので,全体の数値は前回までの算定値と整合している。
  2. 窒素収支算定の精度について,「環境」への排出量の大半を占める「食生活」と「畜産業」を対象とし,1997年の排出量を用いて検討する。
    1. 「食生活」から環境への排出量(643千tN)は,生ごみと生活排水(し尿・台所排水,風呂等)とみなすことができる。生ごみは,品目別の食品廃棄・食べ残し率から,42千tNと推測される。残りを生活排水分とし(601千tN),生活下水基本原単位を用いた見積量の543千tN(11.8gN/人・日× 12,600万人×365日)と比較すると,約10%の違いがある。
    2. 「畜産業」から環境への排出量は約802千tNと推測される。このうち,家畜糞尿の量は,牛・豚・鶏の家畜に対し,「飼料(肉骨粉等の副産物リサイクル分を含む)−と畜体−畜産物(鶏卵,牛乳)」から,約730千tNと推測される。本量は,1999年における飼養家畜に対し,1日1頭羽当たりの糞尿中の窒素原単位を用いた算定値721千tN(原田,2001)と同等である
  3. 1982年から1997年の養分収支の変遷を概括すると次のとおりである。
    1. 環境への総排出量(年間の総消費量)は,1992年をピークとして,1997年は,若干減少している。
    2. 国内生産と輸入の内訳からみると,総消費量の減少を上回る早さで国内生産量が減少しており,その不足分を輸入分が補うという状況で推移している。
    3. 輸入物の増加は,畜産業の場合でみると,飼料としての輸入はむしろ減少し,肉類そのものの輸入が増えており,原料より半製品形態の輸入物の増加が顕著である。また,加工業への供給量の輸入割合の増加,国内生産における作物残さの減少など,いずれも,食料全般にわたる国外依存の増加傾向を示している。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本成果は,今後,マクロな観点から,家畜糞尿,食品加工残さ等の有機性副産物の有効利用や廃棄物処理を検討する際の参考情報として活用できる。

[その他]
 研究課題名 : 全国版養分収支算定システムの拡充と整備
        (物質収支算定システムの構築と環境負荷の定量化手法の開発)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2003年度(2001〜2005年度)
 研究担当者 : 織田健次郎

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