ダイズ子実のカドミウム濃度を土壌属性から予測するための手法


[要 約]
 農林水産省が行ったカドミウム汚染に関する全国実態調査の土壌試料を化学分析した結果と,ダイズ子実のカドミウム・データを合わせて作物・土壌データベースを構築する。そのデータベースから抽出した土壌属性を用いて,重回帰分析によりダイズ子実のカドミウム濃度を予測する。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 重金属研究グループ 土壌化学ユニット
[分 類] 行政

[背景・ねらい]
 農林水産省は,国内外における食品中カドミウム濃度の規制値見直しの動きを受けて,農畜産物等の全国実態調査を行い,主要な品目について調査結果を公表した(http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/cyosa/index.html (ページのURLが変更されています。2014年12月) )。本研究では,全国実態調査チームと協力して,土壌試料を化学分析した結果と,ダイズ子実のカドミウム・データを合わせて作物・土壌データベースを構築し,ダイズ子実のカドミウム濃度を予測する手法を開発する。
[成果の内容・特徴]
  1. 全国実態調査の土壌試料約430点について,5つの土壌属性(土壌pH,全炭素,リン酸吸収係数,交換態Cd,CEC)の分析結果と,ダイズ子実Cdおよび0.1M塩酸抽出土壌Cd(略称を土壌Cdとする)を合わせて,作物・土壌データベースを構築した。
  2. ダイズのCd吸収に係わる6つの土壌属性の主成分分析の結果,2つの主成分に集約できる(図1)。成分1は土壌表面におけるイオンの吸着(全炭素,CEC,リン酸吸収係数)に関係する成分と考えられ,成分2は土壌の可給態Cd(土壌Cd,交換態Cd,土壌pH)に関係する成分と考えられる。
  3. ダイズ子実のCd濃度0.2 mg/kgを基準値とした判別分析の結果,4つの要因(土壌Cd,土壌pH,交換態Cd,CEC)が抽出され,約80%の正答率で2つのグループ(0.2 mg/kg以上と0.2 mg/kg未満)に分かれる(図2)。
  4. 主成分分析および判別分析の結果から抽出された土壌属性を用いて,ダイズ子実のCd濃度を予測する重回帰式の作成を試みたが,全ての土壌群に共通に当てはまる数式を得ることは困難である。
  5. 抽出した3つの土壌属性(土壌Cd,土壌pH,リン酸吸収係数)を用いて,主要な土壌群ごとの最適な重回帰式を作成することができる。すなわち,黒ボク土・多湿黒ボク土(図3左)ではR2 = 0.537であり,褐色森林土・赤色土・黄色土ではR2 = 0.658である。また,灰色低地土(図3右)ではR2 = 0.461であり,グライ土ではR2 = 0.345である。
[成果の活用面・留意点]
  1. ダイズがカドミウムに汚染されやすい場所を特定する作業(農耕地ゾーニング)を実施する際に,基礎資料として活用できる。
  2. 農耕地ゾーニングのためには,過小評価される確率をある程度許容しつつ,ダイズCdの予測値に閾値を設定する手法を確立する必要がある。
  3. 黒ボクグライ土,灰色台地土,グライ台地土,黒泥土,泥炭土等については,重回帰式の作成に必要なデータが不足している。

[その他]
 研究課題名 : 農作物のカドミウム汚染に関する全国実態調査地点土壌の物理・化学分析と
        作物吸収量との関係解析
        (カドミウム等の土壌中における存在形態と吸収抑制機構の解明)
 予算区分  : 高度化事業[カドミウムリスク予測]
 研究期間  : 2004年度(2002〜2004年度)
 研究担当者 : 菅原和夫,牧野知之,櫻井泰弘
 発表論文等 : 1)Sugahara et al., The 1st International Symposium of Japan-Korea Research Cooperation,
                    Abstract, 50-53 (2003)

目次へ戻る