農薬生態毒性評価のためのコガタシマトビケラの室内人工飼育法


[要 約]
 農薬の生態系への影響を推測する試験生物種として, 日本の川や用水路に生息する川虫の一種, コガタシマトビケラを利用するため, その飼育条件を検討することにより, 室内人工飼育が可能となる。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 有機化学物質研究グループ 農薬動態評価ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 農薬の生態系への影響を評価する場合, 魚類, ミジンコ, 藻類といった限られた生物種の急性毒性試験を実施し, 水産動植物への影響を算出しているが, より高精度の評価を行うために河川に生息する多様な生物種を用いた試験法の開発が求められている。そこで, 生態系に重要な位置を占める水生生物の中から国内の河川に広く高密度で分布し, 共食いしにくい等の性質を有する川虫の一種, コガタシマトビケラを試験生物種として選定し, 農薬生態毒性評価のための試験生物として室内人工飼育を試みる。
[成果の内容・特徴]
  1. コガタシマトビケラの室内人工飼育に世界で初めて成功した(図1)。魚用粉末飼料を給餌し, 絶えず給気し, 飼育水を撹拌するなど飼育条件を検討することにより幼虫の室内飼育が可能である。また,羽化した成虫を産卵用ガラス水槽に放ち,産卵用の石を水中に設置することで交尾, 産卵させることができる。孵化直後の1齢幼虫の生存率を高めるため藻類(クロレラ,珪藻等)を給餌することが重要である。
  2. 終齢幼虫の飼育:野外から採集した終齢幼虫の飼育条件は気温・水温20℃,明時間12-14時間に設定する(以下同様)。飼育水は水道水を脱塩素して使用する。飼育用水槽で200-300匹の終齢幼虫が飼育できる(図2)。底質に小石やガラスビーズを投入し飼育水を入れ,幼虫投入後直ちに給気する。餌として魚用粉末飼料約0.2gを1日1-2回給餌する。幼虫は常に水流が必要であり, 回転子を入れマグネチックスターラーで撹拌する。飼育水は数日おきに約半量を交換する。
  3. 蛹化:終齢幼虫は2-3週間程度で繭を作り蛹化するので,蛹化開始後直ちに飼育用水槽をまるごと成虫羽化用ケージに収容する(図3)。蛹化後2-3日で成虫が羽化を開始する。
  4. 成虫羽化・産卵:羽化成虫を吸虫管で産卵用水槽へ成虫を移動する。雌成虫は羽化後1日以内に雄成虫と交尾し, 数日後産卵用石に卵塊あたり平均卵数300-400個の卵塊を産みつける(図4)。
  5. 孵化・若齢幼虫の飼育:発見した卵塊は直ちに石ごと回収する。産卵後12日前後で孵化するので,孵化予定日1-2日前にあらかじめ藻類を加え底質直径2-5mm程度,スターラー回転数毎分50-75回にした飼育用水槽(5-10卵塊/容器収納可)に移す。魚用飼料または藻類を小麦粉状に粉砕した餌を容器あたり1日耳かき約3杯給餌する。水替え等上記と同様に管理し,約1ヶ月で3齢幼虫(体長5mm程度)まで生育後は終齢幼虫と同様の条件で飼育できる。
[成果の活用面・留意点]
  1. コガタシマトビケラ幼虫を試験生物に用いることで, これまで水系生態系において魚等の餌として重要な役割を果たしているにもかかわらず, 知見が少なかった日本の河川や用水路に生息する水生昆虫等への農薬等化学物質の与える影響をより正確に評価することが可能となる。
  2. コガタシマトビケラの飼育や幼虫を用いた農薬の急性毒性試験は比較的容易であるが,幼虫が酸素不足に陥らないよう通気を絶やさないようにする。

[その他]
 研究課題名 : 水生昆虫等水生生物に対する農薬等化学物質の影響評価法の開発
        (水田用除草剤の水系における拡散経路の解明と藻類等水生生物に対する影響
        評価法の開発)
 予算区分  : 環境研究[有害化学物質]
 研究期間  : 2004年度(2003〜2007年度)
 研究担当者 : 大津和久
 発表論文等 : 1)大津ら,日本農薬学会第29回大会講演要旨集,50 (2004)
               2)横山ら,第10回バイオアッセイ研究会・日本環境毒性学会合同研究発表会講演要旨集,
               27 (2004)
              3)大津ら,日本陸水学会第69回大会講演要旨集,89 (2004)

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