くん蒸処理が畑の土壌線虫の種数および密度に及ぼす影響と回復の内容


[要 約]
 クロルピクリン,D−D,臭化メチルによる土壌くん蒸処理後,約12ヵ月で土壌線虫の密度は処理前の水準に回復するが,種数は回復しない。くん蒸処理後は土壌線虫の群集構造が変化し,微生物食性で増殖率が高い線虫が優占種になる。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 生物環境安全部 微生物・小動物研究グループ 線虫・小動物ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 環境に対してやさしい農業が求められる中,クロルピクリン,臭化メチルなどによる土壌くん蒸 処理は,農業生産の上で土壌に生息する全生物に及ぼす影響が最も大きいものの一つである。しかし,クロルピクリンなどによるくん蒸処理が,標的である病害虫以外の土壌小動物に及ぼす影響を調査した例は少なく,調査期間も短いものが多い。そこで,くん蒸処理が土壌に生息する自活性線虫の動態に及ぼす影響を長期的に調査し,1年間で線虫密度などが処理前の水準に回復するかどうか明らかする。
[成果の内容・特徴]
  1. 毎年9月にクロルピクリン,D−D,臭化メチル(2年目のみ実施)でくん蒸処理を行う試験区での調査結果によると,無処理区では土壌線虫の種数は20種前後で安定しているが,くん蒸処理区では薬剤種によらず処理直後に5種未満に減少し,その後徐々に増加するものの,処理12ヵ月後でも15種程度にとどまる(図1)。
  2. 土壌線虫の密度は,無処理区で610〜16941頭/100g生土の範囲で季節変動する。くん蒸処理区では,薬剤種によらず処理直後に13頭/100g生土 前後にまで低下するが,その後徐々に増加して,処理6ヵ月(クロルピクリン)〜9ヵ月(D−D)後には無処理と同程度に回復する(図2)。
  3. D−D処理区の土壌線虫密度はほとんどの場合クロルピクリン処理に比べ低い(図2)。
  4. 増殖率が高い糸状菌食性のAphelenchoides属,細菌食性のRhabditidae科とAcroberoides属線虫は,くん蒸処理後の密度の回復が早い。これら3属・科の割合は,処理前は72%であるが,処理9ヵ月後には97%に達する(表1;1年目)。一方,Filenchus(糸状菌食性),HeterocephalobusCervidellus(以上細菌食性),Opisthodorylaimus(雑食性)などの各属の回復は遅い。
  5. 以上の結果は,3種薬剤とも処理後1年以内に土壌線虫の密度が無処理と同程度まで回復するが,種数や種構成で示される群集構造は1年では回復しないことを示している。
[成果の活用面・留意点]
  1. 土壌くん蒸剤処理などの薬剤処理が農耕地の非標的生物へ及ぼす影響を評価するための基礎データとなる。
  2. D−Dはクロルピクリンに比べ,線虫群集の動態へより大きな影響を与えている可能性があり,今後の検討を要する。
  3. 本情報は関東地方の黒ボク畑土壌で得られたデータである。土性や自活性土壌線虫の種構成などが異なる場所では,異なる回復過程を示す可能性がある。
  4. 調査圃場は関東平野の主要な土壌である黒ボク土の畑圃場で,調査期間は2002年9月から2004年9月,耕種概要は,2年とも9月下旬土壌くん蒸処理, ロータリー耕でガス抜き,ホウレンソウ栽培年2作(播種10月中旬と翌年4月中旬,各作の施肥:10a当り苦土石灰200kg,化成肥料を成分量で窒素 20kg,リン酸27kg,カリ22kg,ホウレンソウの地上部はロータリー耕ですき込み)である。

[その他]
 研究課題名 : 畑地及びその周辺に棲息する線虫の種構成の解明
        (畑地及びその周辺に生息する線虫の属・種構成の解明並びに昆虫病原性線
        虫等の特性解明)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2004年度(2001〜2005年度)
 研究担当者 : 荒城雅昭,岡田浩明
 発表論文等 : 1)荒城,日線虫誌,32(2), 93(2002)

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