移植前湛水深を抑制するとECが高まり懸濁された土壌粒子が沈降しやすくなる


[要 約]
 水稲移植前の湛水深を小さくすると、電気伝導率(EC)が高くなり、土壌粒子の沈降を促進して、排水中の水質汚濁物質濃度が低下する。
[キーワード] 水田、水質、EC、全窒素、懸濁物質、水質汚濁物質
[担 当] 秋田農試・生産環境部・環境調和担当
[区 分] 東北農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・土壌肥料
[分 類] 技術・参考

[背景・ねらい]
 閉鎖水系水田地帯において、水系の水質汚濁物質濃度は主に代かき〜移植時に高くなることが指 摘されており、水田からの水質汚濁物質負荷量の抑制が求められる。そこで、水稲移植前落水に伴う水質汚濁物質の排出に関わる要因として湛水深に着目し、落水直前の湛水深が排水の水質汚濁物質濃度に与える影響について、八郎潟干拓地内の大区画圃場の調査から明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. 排水中の懸濁物質(SS)の対数値は、落水直前の湛水深と有意な正の相関があり、湛水深が大きくなるとSS濃度も高くなる。つまり、落水直前の湛水深を小さくすると水田からの排水量が減るばかりでなく、SSと関係する水質汚濁物質の濃度が低下するので、水質汚濁負荷の低減効果が大きい(図1)。
  2. 移植前排水の電気伝導率(EC)は用水のECに強く影響される。排水のECは用水のECよりも高くなる傾向を示す(図2)。これは、土壌に含まれる電解質が田面水中に溶けることでECが高くなるためである。
  3. 落水直前の湛水深が小さくなると排水のECは高くなる(図2)。湛水量が少ないほど土壌から溶け出す電解質が希釈されにくいので、田面水中の電解質濃度が高くなるためである。
  4. 懸濁溶液中の土壌粒子は、溶液のECが高くなると沈降しやすくなる(室内実験、図3)。
  5. 移植前排水のECが高くなると、SS及び全窒素(T-N)濃度は低下する(図4)。同様に、全有機態炭素及び全リンも低下する(データ省略)。
  6. 以上のことから、移植前の湛水深を小さくすると、田面水のECを高めて土壌粒子の沈降を促進し、排水中の水質汚濁物質濃度が減少する。
[成果の活用面・留意点]
  1. 代かき農家圃場における水稲移植前の排水は、排水開始から一定時間経過後、顕著な濃度変化が見られなくなってから採取した。排水中の水質汚濁物質濃度は対数正規分布する。
  2. 調査期間は1999〜2004年、全調査数は39点、圃場面積は1.25又は2.5ha、調査圃場は強グライ土で、作土の土性はHCである。調査圃場の代かき前の施肥は、多くの場合、有機質資材だけを500〜750 kg ha-1程度施用するか、無施肥である。

[その他]
 研究課題名 : 閉鎖水系水田地帯における持続性の高い農業生産方式の環境負荷評価と環境負荷
        物質低減技術の開発
 予算区分  : 指定試験
 研究期間  : 2004〜2005年度
 研究担当者 : 原田久富美、太田健、進藤勇人、小林ひとみ

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